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RNA干渉法を使った脳疾患の研究

Nature Reviews Neuroscience

2004年1月1日

ヒトの疾患を解明する上でマウスモデルは極めて重要なツールだ。しかし従来の遺伝子導入法や遺伝子ノックアウト法では、遺伝子発現を時空間的に細かく調節することが難しかった。このほどテキサス大学サウスウエスタン医療センター(米国ダラス)のRalph DiLeoneの研究チームは、転写後レベルでの遺伝子サイレンシングの手法であるRNA干渉法(RNAi)を使って、哺乳動物の脳において、この問題点を克服できないかどうかを調べた。その研究データはNature Medicineの12月号に掲載されたが、RNAiを使って、中脳に存在するチロシン水酸化酵素というドーパミン合成酵素をノックダウンすると、パーキンソン病のような表現型を有するマウスを作出できることが示されている。 RNAiは、体外から遺伝物質が侵入した場合に、その遺伝物質から短い二本鎖RNA断片を酵素によって切断し、そのRNA断片を使って、そのもともとのメッセンジャーRNAの翻訳を阻害するという高度に保存された生体防御メカニズムに基づいた手法だ。DiLeone et al.の研究では、2種類の異なるチロシン水酸化酵素のmRNA(24ヌクレオチド長)を特異的に標的とするヘアピン型RNA断片が設計された。これらのRNA断片は、アデノ随伴ウイルスベクターにおいて強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)と共発現させられてから、成体マウスの中脳黒質緻密部に注入された。 注入してから12日後、注入部位のドーパミンニューロン(すなわち、EGFPとドーパミンニューロンのマーカーであるドーパ脱炭酸酵素がいずれも陽性のニューロン)におけるチロシン水酸化酵素の発現レベルが著しく低下したことが免疫染色と定量リアルタイム逆転写PCR法によって判明した。この発現レベルの低下は最短でも50日間続いた。注入部位の中脳ニューロンによって神経支配された側坐核領域でのチロシン水酸化酵素レベルも低下した。これに対して、チロシン水酸化酵素に対する特異性のない短いRNA断片が「ごちゃ混ぜ状態になった」ベクターが注入された対照ニューロンでは、チロシン水酸化酵素の発現レベルは高い状態が保たれていた。 重要なのは、ロータロッド試験とアンフェタミンに対する応答の低下によって、チロシン水酸化酵素の発現に対する干渉と運動機能障害との間に相関関係が認められたことだ。この表現型は、黒質の神経変性を示す神経毒誘導型パーキンソン病モデルの表現型と似ている。このことは、黒質におけるドーパミン量の減少が異常な運動行動を誘発する十分条件であることを示している。このようにDiLeoneたちは、パーキンソン病の研究に役立つ可能性のあるモデルを作出することに成功し、それと同時に、疾患の分子機構を探る際の迅速かつ効果的な手段としてのRNAiの一般的な有用性を実証したのだった。

doi:10.1038/fake521

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