Highlight

投射によって形成される嗅覚地図

Nature Reviews Neuroscience

2004年2月1日

昆虫と脊椎動物の嗅覚系は解剖学的に非常に似ているため、Drosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)は、根本的な組織化原理を調べる際の貴重なモデルとなっている。Jefferisたちは、Drosophila系を使って、脳内の嗅覚の中継中枢で空間マップが確立される過程を調べ、その成果をDevelopmentに発表した。 昆虫と脊椎動物の場合、同じ嗅覚受容体を発現する嗅覚受容ニューロンから発した軸索は、同じ糸球体に集束する。Drosophilaの場合、糸球体は触角葉に存在している。嗅覚受容ニューロンの軸索は、投射ニューロンの樹状突起とシナプス結合し、情報は、脳内のより高次の嗅覚中枢に伝達される。投射ニューロンの樹状突起は、発生順位と細胞系譜によって異なる糸球体に伸びている。 発生段階で糸球体の地図はどのように確立されていくのだろうか? これまでの知見では、当初の触角葉のパターンが嗅覚受容ニューロンの軸索によって定まり、この軸索が、伸びてくる投射ニューロン樹状突起にとっての標的の役割を果たすとする学説が有力とされていた。しかしJefferis et al.の研究では、投射ニューロンのクローンを標識した上で、その樹状突起の初期発生を追跡調査したところ、嗅覚受容ニューロンの軸索が触角葉に到達する前に、投射ニューロン樹状突起が基本パターンを形成し、それがその後の糸球体の姿に似ていることが実証された。 投射ニューロン樹状突起のパターン形成を促すシグナルは、どこから出ているのだろうか? Jefferisたちが検討した候補の1つは幼虫の嗅覚系で、その糸球体の組織化は成虫系と似ている。ところが投射ニューロン樹状突起が成虫の触角葉に侵入する段階で成体と幼虫の触角葉はほとんど接触しない。したがって幼虫のニューロンの残った部分によって投射ニューロン樹状突起のパターンが決まる可能性は低いと考えられる。 糸球体にはグリア細胞と介在ニューロンの突起も含まれていることから、Jefferisたちは、これらの突起によって位置情報がもたらされるかどうかを調べた。糸球体地図の原型が形成される段階では、触角葉でグリア細胞突起は検出されなかった。ただし触角葉の外側では、グリア細胞にパターン形成作用があるかもしれない。介在ニューロンの関与については、介在ニューロンを検出できる信頼性が高い試薬がないため、明確にわかっていない。Jefferisたちは、投射ニューロン樹状突起間の相互作用が、投射ニューロン樹状突起のパターン形成の少なくとも1つの原因となっていると考えている。分子的特徴が同じ樹状突起は、お互いを引きつけ合うことによって集束している可能性があるのだ。 このように今回の研究成果は、触角葉での当初の糸球体地図が投射ニューロン樹状突起によって決まることを示している。この結論は、嗅覚受容ニューロンの役割を強調した従来のモデルを大きく修正するものだが、嗅覚受容ニューロンの軸索も既にパターンが決まっているとする考え方とは矛盾しない。また糸球体地図は、嗅覚受容ニューロンの軸索と投射ニューロン樹状突起との相互作用によって精緻化される可能性が非常に高いと考えられる。次の研究課題は、嗅覚受容ニューロンの軸索と投射ニューロン樹状突起のパターンを決めるシグナルを特定することだと考えられる。

doi:10.1038/fake522

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度