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流れ星を捕まえる
Nature Reviews Neuroscience
2004年5月1日
錯視、つまり物理的刺激とは異なった知覚をする現象は、知覚の研究に利用されることが多い。錯視の1つの例が線運動錯視だ。これは、画面上で小さな正方形の点を瞬間的に呈示した直後に、その点を一端とする線分を呈示すると、それを見た者が、正方形の点と静止した線分の順に知覚するのではなく、線分が一方向に伸びていくように知覚するというものだ。(これは、まるで流れ星のように見える。線運動錯視のサンプルは、http://www.nature.com/nature/journal/v428/n6981/extref/linemotion-examples.html参照。)
これまでに行われた心理物理学的実験の一部では、線運動錯視には高次皮質野による影響が関係していることを示す証拠が得られたが、他の研究では視覚処理の初期段階との関係が指摘されていた。Jancke et al.の研究では、ネコの大脳皮質の第18野(視覚処理に関与する低次の皮質野)の光学画像を用いて、低次視覚野での「ボトムアップ」活動が錯視的な動きの知覚をもたらすのかどうかが検討された。
その結果、正方形の点か線分のいずれか一方だけを瞬間的に呈示した場合には、大脳皮質でのスパイク活動には動きが見られないのに対し、正方形の点を呈示してから線分を呈示して錯視を生じさせる場合には、これとは異なる効果が見られた。すなわち、スパイク活動は、正方形の点の位置に対応する皮質野で始まったが、線分の呈示があると、スパイク活動は皮質に沿って線分上の正方形の点の側からもう一つの端部まで確実に伝播していった(http://www.nature.com/nature/journal/v428/n6981/extref/line-motion-examples_2.htmlの動画で確かめることができる)。この活動パターンは、今回の錯視における線分の移動速度と同じ速度で正方形の点を動かす視覚刺激によって観察された活動パターンと同じだった。
正方形の点の呈示後に線分を呈示した直後に見られた伝播応答は、線分だけを呈示した場合の応答よりも速かった。正方形の点だけを呈示した場合には、スパイク活動を示す領域が、伝播しつつある閾値下活動の領域に囲まれていた。これによって、周囲の皮質野が「プライミング」され、その後の視覚刺激によるスパイク応答が速くなるのだ。閾値下活動は、スパイク活動の領域付近で最大となり、そこから離れるにつれて低下していることから、動かない線分に対する応答は、正方形の点に応答した領域を直接囲む皮質野で最も速く、そこから離れると速度は低下すると考えられる。これによって皮質活動が伝播すると考えることが可能で、Janckeたちは、これが動きの知覚のメカニズムなのであり、大脳皮質のより高次の領域から「トップダウン」の影響を受けることは必要とされていない、という考え方を示している。
doi:10.1038/fake523
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