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母親の深い愛情を受けて育った子供はエピジェネティクスによってストレスに強くなる
Nature Reviews Neuroscience
2004年8月1日
ストレスを受けると、視床下部−下垂体−副腎(HPA)軸が活性化し、血漿中のグルココルチコイド濃度が上昇する。グルココルチコイドは、負のフィードバックループによってHPA応答を鈍化させる。生後1週間目に母親が十分に世話をしたラットが成獣になった時、海馬におけるグルココルチコイド受容体(GR)の発現レベルは相対的に高く、グルココルチコイドの負のフィードバックループに対するHPA軸全体の感受性も相対的に高くなっていた。母親による世話を受けるとGRの発現レベルが大きく上昇するメカニズムについては、これまでに複数の仮説が提唱されていた。しかし、この効果がラットの一生の間持続する過程については解明されていなかった。
遺伝子の転写調節は極めて複雑な過程であるが、DNAメチル化は、こうした過程に関与するメカニズムの1つだ。Weaver et al.の研究では、母親ラットに十分に世話されて成長したラットと母親の世話をあまり受けなかったラットにおけるGRプロモーターのメチル化を比較した。「十分な世話を受けた」グループの場合、転写因子NGFI-Aの結合部位にあるシトシンのメチル化のレベルは、「あまり世話を受けていない」グループよりも90%低かった。このシトシンは、十分に仔の世話をする母親の場合もあまり世話をしない母親の場合も生まれたての仔においては高度にメチル化されているが、母親の十分な世話を受けた仔(この母親の仔でないケースも含む)の場合には、生後6日以内にメチル化のレベルは低下し、その後も低いレベルが続いた。また、メチル化レベルの低下とNGFI-AとGRプロモーターとの結合の増加とが相関していた。NGFI-AとGRプロモーターとの結合が増えるとGRの転写が増えることが予想される。
以上のような系を攪乱させるためにWeaverたちはトリコスタチンA(TSA)を成獣のラットの脳に注入した。TSAは阻害剤で、DNAメチル化を間接的に抑制できると考えられている。「あまり世話を受けていない」ラットにTSAを注入した場合には、仮説の通り、海馬では、極めて重要な役割を果たすシトシンのメチル化のレベルが低下し、NGFI-A とGRプロモーターとの結合が増加し、GRの発現量が増加した。そして「あまり世話を受けていない」ラットへのTSA注入によって、基本条件下でもストレスを受けた条件下でも血漿中のグルココルチコイド・コルチコステロン濃度が低下した。このことは、HPA軸の機能が正常な状態になったことを示唆している。
分裂終了細胞において、DNAメチル化パターンは時間が経っても安定している傾向がある。確かに、Weaver et al.の研究によって、「十分な世話を受けた」仔の場合にGRプロモーターのシトシンの脱メチル化が起こる過程の解明が新たな課題となっている。それでも、メチル化の安定という事実自体によって、母親ラットの世話の効果が仔の一生を通じて持続する過程を説明できる点には興味をそそられる。
doi:10.1038/fake525
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