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覚醒・睡眠時の皮質活動を解明するためのモデル

Nature Reviews Neuroscience

2005年1月1日

睡眠時に脳波検査(EEG)を行うと、皮質活動にゆっくりとした振動が観測される。このような振動は、視床と皮質の相互作用に依存している。HillとTononiは、視床皮質間の相互作用、そして覚醒から睡眠への切り替えを調べるため、覚醒モードと睡眠モードの切り替えを行える大規模な視床皮質回路のコンピュータモデルを作製した。

コンピュータモデルには、65,400のスパイキングニューロンと約500万のシナプスが含まれており、スパイキングニューロンの特性は、ネコの視床皮質系から得た生理学的データ(発火特性、細胞内経路の動態など)に基づいている。この皮質モデルには、第一次視覚野、第二次視覚野と背側視床、視床網様核の領域が含まれている。皮質モデルは、顆粒上層(2、3層)、4層、顆粒下層(5、6層)の3層構造になっており、皮質内結合と視床皮質間結合が詳細に再現されている。また、コンダクタンスを広範に変化させる神経調節モデルも組み込まれている点が特筆される。

覚醒時における大脳皮質の自発活動には低電位速波パターンが見られることがEEGで観測されており、個々のニューロンは不規則な自発発火をする。HillとTononiのモデルでは、視覚刺激に対する応答を含めて、この状態が再現されている。(例えば、視覚刺激誘発応答としてのガンマ帯域の同期化が見られる。)また、このモデルは、実際の皮質と同様に、徐波睡眠状態への切り替えができる。徐波睡眠状態になると、膜電位は、ニューロンの発火が急速に起こる脱分極側のup状態とニューロンが発火しない過分極側のdown状態の二峰性分布をする。

HillとTononiは、このモデルを使って、ゆっくりとした振動の始まりについて調べ、覚醒から睡眠への移行がカリウムリーク電流の増加によって発生しうることを発見した。生理学的に見ると、このことは、アセチルコリンまたはその他の神経調節物質が減少した結果と対応している可能性がある。また、HillとTononiは、このモデルを使って、睡眠状態の維持と終了に必要な神経コンダクタンスを調べ、皮質皮質間結合によってゆっくりとした振動の同期化が起こることを明らかにした。

HillとTononiのモデルには、細胞内経路特性から全体的な活動パターンに至る視床皮質系の各側面が組み込まれており、そのため、徐波活動の数多くの側面(例えば、徐波活動が神経可塑性に与える影響)を調べることができるはずである。このようなモデルを使って立てた仮説は、生理的システムを使って検証でき、検証結果を使ってモデルの精緻化や改良を図ることができる。このようにすれば、理論神経科学と実験神経科学を合わせて利用して、神経系の解明を進めることが可能になるのだ。

doi:10.1038/fake528

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