Highlight

「網膜波」と視覚系の発達

Nature Reviews Neuroscience

2005年2月1日

発達段階の網膜に見られる自発的な電気活動の波は、視覚系でニューロンを正確に結合させるための重要なシグナルだと考えられている。このほどZhengたちは、この「網膜波」が発生する過程と視覚系の成熟によって網膜波が停止する過程を調べ、その結果をNeuron誌に発表した。彼らは、starburst細胞というアマクリン介在ニューロンのネットワークが極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした。

Zhengたちは、二重パッチクランプ記録法を用いて、周産期のウサギの網膜におけるstarburst細胞間の結合状態を解析した。その結果、starburst細胞は、GABA(γアミノ酪酸)放出シナプスとニコチン性コリン作動性シナプスによって相互結合していることが判明した。また、個々のstarburst細胞は、カルシウム依存的にGABAとアセチルコリンをともに放出することができる。GABAは、その抑制作用が最もよく知られているが、発達段階の神経系では興奮性神経伝達物質として機能する。したがって、発達初期のstarburst細胞ネットワークで、ニューロンは2種類の興奮性シナプスによって結合しているのだ。

従来の研究では、網膜波がニコチン性神経伝達に依存していることが明らかになっていた。Zhengたちもニコチン性シナプスが関与するstarburst細胞間の相互興奮を通じて、網膜波が伝播していくことを示す証拠を得た。これは、従来の研究結果と矛盾しない。網膜波がどのようにして発生するのか、という点については依然として解明されていないが、いったん網膜波が発生すると、starburst細胞ネットワーク内の作用のみによって網膜波が発生し続けるようだ。

さらにZhengたちは、ウサギの目が開き、目が見えるようになる生後1週間の時期にstarburst細胞ネットワークにも重大な変化が起こることを明らかにした。すなわち、ニコチン性シナプスは消失し、GABA放出シナプスが抑制作用を有するようになり、それまでの過剰興奮性ネットワークは抑制ネットワークへと変化したのだ。この抑制作用は、光によって誘起されることから視覚において重要な役割を果たしていることを示している。従来の研究では、運動方向の検出においてstarburst細胞が何らかの役割を果たしているとされていた。Zheng et al.の論文では、この役割がstarburst細胞ネットワークでの側方抑制によるものだとする見解が示されている。

Zhengたちの研究は、starburstアマクリン細胞が発達段階初期に興奮性ネットワークを形成することを示す初めての決定的な証拠といえる。興奮性ネットワークは、視覚系の発達にとって重要だ。そして視覚系が成熟して、現実の視覚信号を処理し始めると、興奮が抑制に転じ、より視覚情報の処理に適した相互抑制的なネットワークが形成されるのだ。

doi:10.1038/fake530

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度