Highlight

われを解き放ちたまえ

Nature Reviews Neuroscience

2005年6月1日

シナプス前活動電位に対するシナプス後反応は、「即時放出可能な」シナプス小胞の数によって決まる。しかし、このほど発表された実験データによれば、即時放出可能プール(RRP)に含まれる小胞のすべてが、放出されることを待ち望んでいるわけではないことが示されている。The Journal of Neuroscienceに掲載されたMoulderとMennerickの共著論文では、一部のシナプスにおける活動電位出力の変動幅を広げる可能性のある「放出されることに消極的な」シナプス小胞の集団について記述されている。

RRPには、シナプス小胞のうち、放出のために待機しているシナプス小胞が含まれる。そしてRRPのサイズの調整は、シナプス強度を調節する基本的な手段となっている。RRPサイズの推定は、一般に刺激を用いてRRPを枯渇させ、その結果として生じるシナプス後反応を測定して行う。しかし、一部のシナプスにおいて得られたRRPの推定サイズは、RRPの枯渇方法によるばらつきが見られる。果たして、これらの測定方法は、本当に同じシナプス小胞プールについて調べているのだろうか?

この論点に取り組んだMoulderとMennerickは、培養した海馬細胞中の(グルタミン酸を放出する)興奮性ニューロンと(GABA(γ−アミノ酪酸)を放出する)抑制ニューロンを調べた。ここで彼らは、ニューロンとそれ自身の樹状突起の間に自己シナプス結合を形成した海馬細胞について電気生理学的記録を個別に作成し、高張性スクロースの注入または高頻度の活動電位列による刺激に対するシナプス後反応を比較した。グルタミン酸作動性ニューロンの場合、スクロースによって枯渇したRRPには12,681個のシナプス小胞が含まれていると推定されたが、活動電位列によって引き起こされた反応では、最大でも1,945個のシナプス小胞しか推定できなかった。

GABA放出ニューロンの場合には、スクロース注入と活動電位列によるRRPサイズの推定値に差は見られなかった。このことは、特定のシナプス前あるいはシナプス後の要因が、グルタミン酸作動性ニューロンに見られたばらつきの一因であることを示している。RRPサイズの推定値を混乱させる可能性のあるシナプス後の要因としては、例えばグルタミン酸受容体飽和があるが、興奮性ニューロンにおけるばらつきにわずかな影響しか与えていなかった。このため、MoulderとMennerickは、推定値のばらつきの原因となりうるシナプス前の要因を探した。その結果、活動電位列が長くなると、RRPサイズの推定値がスクロースを使って求めた推定値に近づき、活動電位列の印加時にCa2+流入量を増やすことによって、推定値のばらつきをなくせることが判明した。高濃度の細胞外カリウムによる強い脱分極刺激によって得たRRPサイズ推定値は、スクロースを使った場合の推定値と同じだった。

以上の知見からは、放出可能なシナプス小胞の集団は不均一であり、Ca2+濃度が変化すると、小胞の放出量が変化しうることが示唆されている。今回の論文では、RRP中に「放出されることに消極的な」シナプス小胞が存在するため、海馬のグルタミン酸作動性シナプスの可塑性が、より大きくなっている可能性が指摘されている。そうなると、シナプス伝達の調節因子によって「即時放出可能な」シナプス小胞の放出に対する「思い」が強くなったり、弱くなったりするのだろうか、という興味深い疑問が生じる。今後の解明が待たれる。

doi:10.1038/fake534

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度