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薬物への欲望
Nature Reviews Neuroscience
2006年4月1日
今回の研究では、ラットの中脳切片をオレキシンA溶液に浸漬してVTAニューロンを記録したところ、NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体によって誘発される興奮性シナプス後電流が増強された。この作用は、ホスホリパーゼC(PLC)あるいはプロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤によって阻害されたため、PLC/PKC依存性細胞内経路の関与が示唆されている。さらに行われた薬理学的研究では、オレキシンAがNR2サブユニットを含むNMDA受容体を主として増強し、この過程では、細胞内NMDA受容体をシナプスに移動させる必要があることが判明した。
行動的増感現象が発生する上でNMDA受容体の増強が重要な役割を果たす。行動的増感現象は経験依存性可塑性の一形態で、薬物によって活発になった歩行運動の持続的増進、薬物摂取への意欲の増強、薬物報酬効果の増加といった特徴がある。それではオレキシンAは、コカインが誘発する作用にも関与しているのだろうか。オレキシン受容体1型(OXR1、オレキシンAとの親和性が高い)のアンタゴニストであるSB334867を全身投与した実験では、コカインによって誘発されたVTAドーパミンニューロンの興奮性シナプスの長期可塑性が阻害された。
コカインを注射する前にSB334867の全身投与を行った実験では、コカインが誘発する行動的増感現象が減った。この場合、行動的増感現象の増減は、歩行運動量の増減で測定された。SB334867をVTAに直接微量注入した実験でも類似の作用が認められた。このことは、VTAドーパミンニューロンでのOXR1の活性化がコカインによる増感現象の一因であることを示唆している。しかしコカイン注射後にSB334867を投与した実験では、歩行運動量を増加させる効果が認められず、行動的増感現象の発現にオレキシンAが必要でないことが示された。
今回と似た結果は、既に副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)に関する研究で導き出されている。したがってオレキシンとCRFは、シナプス可塑性を制御することによって、環境に対する覚醒応答やストレス応答の学習に関与している可能性があり、この神経適応過程は薬物乱用によって「ハイジャック」されるのかもしれない。覚醒とストレスは、酩酊時ではなく、依存症患者が治療を求める禁断時に薬物探索行動の引き金となることがあるため、オレキシンとCRFのペプチドシグナル伝達経路が、依存症治療薬開発における標的となる可能性がある。
doi:10.1038/fake543
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