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細胞内膜でのホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸生産の仕組み

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年11月1日

細胞膜にあるホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PtdIns(3,4,5)P3)は、下流にあるシグナル伝達経路を活性化するさまざまなタンパク質を集合させたり、活性化したりできる。 だが、PtdIns(3,4,5)P3 の生産の動態については、まだあまりわかっていない。それは、1個の生細胞中での生産がどこで、どのような手順で行われているのか、それを定量的に解析する技術がなかったからである。しかし、今回Nature Cell Biologyに梅澤喜夫(Yoshio Umezawa)らがfllipと呼ばれる新しい蛍光指示薬について発表した。このfllipを使い蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく測定を行って、梅澤らはPtdIns(3,4,5)P3の動態をin vivoで研究することができたのである。 fllipは、PtdIns(3,4,5)P3に選択的に結合するプレクストリン相同(PH)ドメインを含んでいる。このドメインはシアン蛍光タンパク質(CFP)の一種と黄色蛍光タンパク質(YFP)の一種の2つと融合しており、剛直なリンカー2つを使って、PHドメインがCFPとYFPの間に挟まれるような形になっている。これらのリンカーの1つには、ヒンジとして働くジグリシンモチーフが含まれている。さらにもう1つ硬いリンカーが使われ、指示薬部分と膜移行配列(MLS)とを連結している。fllipの中央部にあるPHドメインがPtdIns(3,4,5)P3に結合すると、柔軟なヒンジ部分を介して「フリップフロップ型」のコンホメーション変化が起こる。この変化はCFPからYFPへの分子内FRETとして観察することができるのである。 PHドメインは特異的にPtdIns(3,4,5)P3に結合するが、この特異性はfllip中に組み込まれても影響を受けないことをまず明らかにしてから、梅澤らは特異的なMLSを使えばfllipを特定の膜に特異的に導くことができるのを示した。そして、主に細胞膜に結合して観察されるfllipをfllip-pmと、小胞体(ER)やゴルジ体の膜のような細胞内にある膜でみつかるfllipをfllip-emと命名した。さらに、PtdIns(3,4,5)P3に依存して起こるCFPとYFP間のFRETの増大は、PtdIns(3,4,5)P3の投与量に依存して変わることも明らかにした。 次に、fllip-pmとfllip-emの生理的な刺激に対する応答が、PDGF受容体(PDGFR)を発現している細胞での血小板由来増殖因子(PDGF)の影響を調べることで解析された。PDGFは、PDGFRの二量体化を促進し、二量体化はPDGFRのリン酸化と活性化を引き起こす。リン酸化されたPDGFRは、次いでホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3K)の移動と活性化を引き起こし、この結果PtdIns(3,4,5)P3が生産される。 PDGFによる刺激の後、PtdIns(3,4,5)P3の濃度は細胞膜で予想通り増加したが、細胞内膜でもやはりこの濃度が増大していることがわかった。しかし、細胞内膜での増加は、細胞膜よりも遅れて起こった。また、細胞内膜での増加の程度は、細胞膜でのそれの2から3倍という大きさであった。では、PtdIns(3,4,5)P3の濃度が細胞内膜で増加することの背後にはどのような分子機構が働いているのだろうか。 梅澤らは、ダイナミンのドミナントネガティブ変異体を過剰発現させると細胞内膜におけるPDGFによるPtdIns(3,4,5)P3の増加が阻害されること、しかし、細胞膜では増加の阻害が見られないことを明らかにした。ダイナミンは、PDGFRのような受容体チロシンキナーゼ類(RTK)の、クラスリン依存性エンドサイトーシスの調節を行っている。また、タンパク質チロシンホスファターゼ-1Bは、ERの細胞質側の表面だけに限定的に局在していて、そこでRTKの不活性化を行うと考えられているが、この酵素を過剰発現させても、同じような影響が見られることがわかった。これらの結果は、活性化されたPDGFRがクラスリン被覆小胞によるエンドサイトーシスにより細胞膜から細胞内膜へと取り込まれ、それにより細胞内膜でPI3Kの活性化が起こった時にPtdIns(3,4,5)P3の生産が細胞内膜で増大する、ということを示している。 つまり、細胞内膜のPtdIns(3,4,5)P3in situで生産されており、細胞膜由来のエンドサイトーシス小胞によってこの場所へと運ばれるのではないということだ。梅澤らは、エンドサイトーシスで取り込まれたRTKが、ERでダウンレギュレートされる前に細胞内膜にあるPI3Kを活性化すると考えた。今回の研究は、細胞膜から遠く離れた細胞内区画で、PtdIns(3,4,5)P3がどうやってその下流のシグナル伝達過程を活性化するのかという、長らく未解決のままだった問題に取り組んだものであり、また他の脂質第二メッセンジャー類の研究にも使えそうな新型の蛍光指示薬をももたらしたのである。

doi:10.1038/fake544

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