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上皮細胞をくっつける

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2003年2月1日

ERM(エズリン-ラディキシン-モエシン)タンパク質は、細胞中で構造とシグナル伝達の両方の役割を持つと考えられており、これらは共に上皮の完全性に影響を与えている可能性がある。R FehonらはNatureに掲載された研究で、モエシンは皮質アクチンの配列と頂端基底極性の確立を促進するが、それは細胞膜とアクチン細胞骨格を結合させるためではなく、低分子GTPアーゼRhoの活性を拮抗阻害するからであることを示している。 ERMタンパク質は、哺乳類では機能的に重複していることがわかっている。そこで、著者らはショウジョウバエではモエシンが唯一のERMタンパク質であることに着目した。彼らはモエシン遺伝子中にある転移性のP因子挿入を見つけ、この因子をMoeGO323と命名し、これがモエシン遺伝子の不活性化を起こすことを見出した。MoeGO323半接合体幼虫の成虫原基中にはモエシンが認められなかった。MoeGO323成虫原基由来の上皮細胞では、細胞の頂端部ドメインが繊維性のFアクチンを欠いており、アクチンは正規の場所以外のところに集合していた。 これとは逆に、構成性活性を持つモエシンを発現している細胞では、皮質のFアクチン発現が著しく増大していた。野生型細胞では頂端基底の区別が明らかで、細胞に極性があるのだが、MoeGO323細胞は極性を欠いていた。また、こういう細胞では、接着の起こっていることを示すマーカーであるE-カドヘリン、あるいは上皮の極性マーカーの発現が見られず、上皮単層の基底に集積することが多かった。MoeGO323細胞は、細胞間接着と上皮性のマーカーを欠くばかりでなく、浸潤性も備えていた。 細胞の接着と運動性に影響を及ぼすことが知られているもう1つのタンパク質は、RhoA(ショウジョウバエではRho1)である。では、RhoAとERMという2つのタンパク質の間にはつながりがあるのだろうか。これについて調べるために、FehonらはMoeGO323細胞を使い、Rho1の量を半分にしてみた。その結果、全体的な形態の崩れや、MoeGO323の成虫原基上皮細胞中にみられたFアクチンの集合が抑制された。これはモエシンがRhoに拮抗的に働いて、上皮極性と完全性を調節していることを示している。 この考え方が正しいことを確かめるため、Fehonらは野生型の成虫原基上皮細胞中でRho1を過剰発現させた。すると、予想通りにMoeの機能が欠失した際に見られるのとそっくり同じこと、つまりFアクチンの局在位置の異常、上皮細胞の接着性と極性のマーカーの喪失が起こった。この場合も細胞は上皮単層の下に集まることが多く、野生型細胞が作っている隣接領域に浸潤した。Rho経路の活性の上昇は、哺乳類上皮細胞の浸潤や転移のような行動につながることが知られているが、これは上記の結果と一致している。 Fehonらは、ERMタンパク質の短縮型変異体でエズリン、ラディキシン、モエシンの機能が阻害されているものを用いて、今回の結果が哺乳類にも通用するであろう。こういう細胞でRho活性を調べたところ、この変異体はRho自身に働きかけるもの、あるいはRhoの上流の調節体であって、下流のエフェクターの負の調節体ではないことがわかった。RhoGDP解離阻害剤(RhoGDI)とRhoのグアニンヌクレオチド交換因子であるDblは共に、ERMタンパク質に結合することが知られているが、今後の研究はこの方面に絞られるだろうと思われる。

doi:10.1038/fake552

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