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迅速応答用装置

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2004年1月1日

緊急事態に際しては、それが非常連絡を受けて救急車を出すという場合だろうが、痛みを伴う刺激に対する神経系の反射応答の場合だろうが、とにかく迅速な応答が肝心である。神経は、Ca2+に誘導されて起こるシナプス小胞のエキソサイトーシスにより互いに連絡し合っている。Nature Structural and Molecular Biologyに掲載された論文で、Chapmanらはこの神経応答が極めて迅速に起こる仕組みについて考察している。 シナプトタグミンIはその膜貫通ドメインでシナプス小胞の膜に留めつけられており、細胞質に向いている2つのC2ドメイン(C2AとC2B)でCa2+の濃度を感知できる。ここで行われるCa2+感知は、膜にドッキングした小胞がCa2+に誘発されて融合を起こすのに重要だと考えられている。シナプトタグミンI機能のエフェクターと考えられているのは、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸(PtdIns(4,5)P2)で、これは細胞膜に選択的に局在していることが最近明らかにされている。そこでChapmanらは、シナプトタグミンIとPtdIns(4,5)P2を含む膜との相互作用について調べてみた。 Chapmanらはまず、C2A、C2B、およびC2A-C2B部分が、さまざまな量のPtdIns(4,5)P2を含むリポソームとの結合できるかどうか調べた。Ca2+の存在下では、C2Aが高濃度のPtIns(4,5)P2を含むリポソームのみと結合したが、これは恐らく生理的なものではないと考えられた。一方、C2A-C2BとC2Bは、低濃度のPtdIns(4,5)P2を含むリポソームと結合した。注目すべきことに、これらの2つのペプチド断片は同じリポソームと、Ca2+が存在しない場合にも結合した。このことから、C2Bはin vivoではCa2+シグナルが到達する前にPtdIns(4,5)P2と結合しているかもしれないと考えられた。 C2AとC2BドメインのCa2+結合ループは、Ca2+シグナルが来ると、それに応答して膜の脂質二重層に挿入されることがわかっている。そこでChapmanらは、C2A-C2Bの4つあるループに蛍光プローブを挿入し、PtdIns(4,5)P2を含む膜でもこういうことが起こるかどうかを調べた。彼らはPtdIns(4,5)P2を含むリポソームと、その膜に埋め込まれた蛍光消光標識を使い、C2A-C2Bの4つのループのうちの3つがCa2+に応じて、リポソームの脂質二重層に挿入されることを明らかにした。これに対して、Ca2+が存在しないと、C2A-C2Bが結合しても蛍光消光は起こらない。つまり、これはCa2+に依存しない結合では膜への挿入が起こらなくてもよいことを示している。実際、著者らはこの結合がC2B側の多塩基領域を介して起こることを明らかにした。 では、この「事前に起こる結合」はCa2+によって引きおこされるシナプトタグミンIの応答を加速しているのだろうか。C2A-C2BとPtdIns(4,5)P2を含むリポソームを、Ca2+のない条件下で前もって混合しておいたところ、C2A-C2BのCa2+に対する応答はサブミリ秒の反応速度で起こり、この事前混合処理をしなかった場合よりもずっと迅速であることがわかった。さらに、ChapmanらはPtdIns(4,5)P2はシナプトタグミンIをPtdIns(4,5)P2を含む膜に誘導することも明らかにした。プロテオリポソーム中に組みこんで再構築したシナプトタグミンIはPtdIns(4,5)P2を含む膜を選んでtransと結合し、この結合はCa2+が無くても起こるが、Ca2+によって促進されたのである。 そこでChapmanらは、まずC2Bドメイン側がCa2+に依存せずにPtdIns(4,5)P2と結合し、これによってシナプトタグミンIがPtdIns(4,5)P2を含む膜に引き寄せられるというモデルを考えている。事前にこういう結合を作っておけば、Ca2+に応答する場合にもC2ドメインは配置替えだけをすればよくなる。そしてCa2+結合ループをすばやく脂質二重層に挿入できるというわけだ。従って、シナプトタグミンIとPtdIns(4,5)P2の結合は、シナプトタグミンIの膜挿入に関わる部分を細胞膜に引き寄せるのに加えて、Ca2+に誘発されるシナプトタグミンI応答をスピードアップするのにも必要ということになる。

doi:10.1038/fake563

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