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珍しいアダプターが引きおこす細胞死

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2004年2月1日

アポトーシス経路にはそこら中にアダプタータンパク質が存在しているように見える。そういうたくさんあるアダプタータンパク質の中で最近見つかったものの1つがapoptosis-associated speck-like protein (ASC)である。ASCはpyrinドメインとカルボキシ末端のcaspase-recruitment ドメイン(CARD)の両方を持っており、これだけでも充分珍しいのだが、それに加えて、アポトーシス促進タンパク質Baxと結合して、アポトーシスを起こすp53-Bax内因性ミトコンドリア経路の調節もしていることが報告された。Ohtukaらが行ったこの研究はNature Cell Biologyに発表されている。
腫瘍抑制因子であるp53を加えた場合と加えない場合での遺伝子発現を比較することで、著者らは、p53の存在下で、ASCのメッセンジャーRNAとタンパク質の発現が誘導されることを観察した。
ASCのプロモーターはp53識別配列を含んでおり、さらに実験を進めたところ、この特異的なタンパク質-DNA相互作用が起こっていることが確認された。p53標的遺伝子のいくつかは細胞周期の停止あるいは細胞死に影響を及ぼしている。ASCを過剰発現させてみたところ、相当量のアポトーシスがひき起こされた。しかし、このアポトーシス誘導効果は、Baxを欠く細胞では著しく低かった。また、遺伝毒性を持つ物質の存在下でASCを過剰発現させると、細胞死が増加することもわかった。
著者らは次に、低分子干渉RNA(siRNA)を使って、p53が誘導するアポトーシス、あるいは遺伝毒性物質性ストレスが誘起されるアポトーシスで、ASCが直接果たしている役割について調べた。ASCの発現が低下すると、どちらのアポトーシスも阻害されたが、これはDNA損傷によって起こるアポトーシスでは、ASCがp53の下流にあるエフェクターであることを示している。Baxが無い場合、ASCによって誘発されるアポトーシスが阻害されたし、Baxはミトコンドリアの機能不全を引きおこして、その結果アポトーシスの刺激因子が放出される。そこで、Ohtukaらはミトコンドリアの膜電位とシトクロムcの放出に対するASC過剰発現の影響を調べた。Bax+/+でASCを発現している細胞は膜電位がかなり低くなっており、シトクロムcを細胞質内に放出したが、Bax-/-細胞ではそういうことは起こらなかった。
ASCタンパク質の殆どはミトコンドリア分画に局在しており、欠失変異を用いた研究から、アミノ末端にあるpyrin領域がこの局在に必要であることがわかった。ASCがCARDを持つことから、著者らはASCのカスパーゼに対する影響を調べてみた。プロカスパーゼ-2、-3と-9は、Baxの存在下でのみ切断を受けて活性型になった。従って、ASCは、Baxと同じくミトコンドリアに局在し、アポトーシスを誘導しているらしい。ASCとBaxは、p53による調節を受ける、ミトコンドリアと細胞質に局在する、アポトーシス促進性などいくつかの性質が共通であるから、著者らはこの2つのタンパク質が物理的に連結している可能性について調べた。こうした物理的な連結は、アポトーシスを促進するp53-Bax内因性ミトコンドリア経路に必要である。内在性のBaxは内在性のASCと結合するが、他のBcl2-ファミリーのタンパク質はASCと結合しない。この結合はASCのpyrinドメインを介して行われ、これら2種のタンパク質は細胞質とミトコンドリア中に局在し、行動を共にしていた。
しかし、肝心なのは、ASC がBaxの局在に影響を与えるかどうかであった。ASCを過剰発現させると、ミトコンドリア分画中のBaxの量が増大し、同時に細胞質分画中のBax量が低下する。さらに解析を行ったところ、ASC発現はBaxのコンフォメーション変化を引きおこし、それによってBaxがミトコンドリアに移行することがわかった。さらに、ASCをsiRNA処理により阻害すると、Baxのコンフォメーション変化が阻害され、遺伝毒性ストレス後のBaxのミトコンドリアへの移行が低下した。
つまり、ASCはDNA損傷によって引きおこされるアポトーシス経路においてp53の下流で機能してBax内因性ミトコンドリア経路を調節している。一方、ASCがカスパーゼの活性化をBaxに関係なく行っていることを示す証拠も明らかになっており、この珍しいアダプタータンパク質についてさらなる研究が必要であることが示されている。

doi:10.1038/fake565

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