Highlight
頭と尻尾を分ける
Nature Reviews Molecular Cell Biology
2004年9月1日
二宮らは、脊索中胚葉細胞を解離させ、混ぜ合わせてから再度凝集させるという実験を行い、細胞は元々あったAあるいはPの位置を占めるように自発的に再配列することを見出した。この脊索中胚葉に内在的なA-Pパターンがあるという結果は、X. laevisのbrachyury(Xbra)とchordin(chd)両遺伝子の発現パターンが、Xbraの発現はA側で低くP側が高くなり、chdではこの逆となるという典型的の形をとることによって裏付けられた。
では、脊索中胚葉がA-Pパターンを示すには何が重要なのだろうか。この問題を探るために、二宮らはAあるいはP領域にある脊索中胚葉細胞をそこから引き離し、別々に再凝集させ、それから凝集体を一緒にしてみた。AとA、あるいはPとPという同一の凝集体の組み合わせでは細胞集団は丸いままだったが、AとPの凝集体を組み合わせたところ、A-P軸に沿って伸長することがわかった。したがって、収束伸長にはA-P極性が必要なことがわかった。
シグナル伝達分子であるアクチビンは、ある一定の濃度でchdの発現を誘導し、Xbraの発現を低下させる。in vitroで外植片をアクチビンの濃度勾配中におくと伸長が起こったが、アクチビンの濃度が高くても低くても、濃度が一律であれば外植片は丸いままだった。一定濃度のアクチビンで処理した外植片でのchdあるいはXbraの発現は、濃度勾配処理したものに比べると一律だったが、濃度勾配処理したものではXbra-chdの発現に勾配が認められた。つまり、アクチビンのシグナル伝達勾配によってA-P極性が確立され、収束伸長が引き起こされるのである。二宮らによれば、in vivoでのA-Pパターン形成の調節に関わっているのは、アクチビンでなく、また別のシグナル分子であるNodalらしい。
さらに、Wnt/平面内細胞極性(PCP)経路に欠陥があると外植片の伸長が阻害されることがわかったが、この場合に遺伝子発現の勾配パターンが乱れることはなかった。つまり、Wnt/PCPシグナル伝達は、収束伸長をA-P極性に依存せずに調節しているらしい。このことから、これら2つのシグナル伝達経路はおそらく並行して働いていると考えられる。
以上の結果をまとめると、今回の発見は極性をもった脊索中胚葉細胞が移動し、A-P軸に沿って収束伸長し、その結果頭部と尾部の分離を引き起こすという、細胞に備わる特殊な性質を調べる道を開くものといえるだろう。
doi:10.1038/fake571
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