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なわばりを守るタンパク質

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2004年10月1日

我々の体は外から見ると左右対称に見えるが、中味の臓器の方は非対称に配置されていることはよく知られている。細胞にもはっきりとした非対称性が潜んでおり、たとえば細胞成分を不均一に配列することにより、細胞が頂端部と底部に分かれて極性が生じる。哺乳類の上皮細胞には、このような頂底極性にかかわっていると考えられている2種類のタンパク質、非定型性プロテインキナーゼC(aPKC)とPAR1があり、どちらもよく研究されている。今回、鈴木厚らはaPKCがこういう極性の確立と保持に関してPAR1の上流で機能していることを明らかにした。

aPKCとPAR1はイヌ腎臓由来Madin-Derby(MDCK)細胞では、頂底軸に沿って分かれて存在している。つまり、PAR1は側底部の膜に局在するが、aPKCは頂端部細胞膜に分布している。これら2種類のタンパク質には、一方の影響によって他方が限定された場所に存在するようになるというような関係があるのだろうか。鈴木らはRNA干渉を用いて、MDCK細胞で膜ドメインが非対称的に成長するのに、PAR1b(PAR1の4種ある相同体の1つ)が必要であることを明らかにした。しかし、PAR1bが存在しなくても密着結合(TJ)と呼ばれる細胞間接着の形成、あるいはaPKCの非対称的な分布には影響が見られなかった。これに対して、aPKCが存在しないとTJの形成が阻害され、PAR1bの集積も妨げられた。

鈴木らは次に、aPKCがPAR1bのトレオニン595(T595)をリン酸化すること、また極性を持たないMDCK細胞よりも極性化したMDCK細胞の方がリン酸化されたPAR1bが多いことを明らかにした。細胞に極性が生じる過程の後期にT595は脱リン酸化されるように見えた。これらのデータや、細胞分画実験および免疫細胞化学的実験の結果は、PAR1bのT595の脱リン酸化はPAR1bが側部に安定に局在するのに必要であると考えると矛盾なく説明できた。T595がリン酸化されたPAR1bは主に溶液分画に見出されたからである。

ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)では、骨格タンパク質である14-3-3はPAR1に結合する。そして鈴木らは、MDCK細胞中ではこれらのタンパク質が結合し合うばかりでなく、T595のリン酸化が結合を促進することも見出した。14-3-3は結合相手の細胞内での局在場所を変更すると考えられているし、水溶性でリン酸化されたPAR1に主に結合することもわかっているので、鈴木らは以下のようなモデルを考案した。つまり、膜にあるaPKCはPAR1bをリン酸化する。リン酸化されたPAR1bは膜から離脱して14-3-3の働きによって水溶性分画中に入る。こうして、PAR1bは密着結合の頂端部膜から排除され、その結果として適切な非対称性を持つ膜ドメインが保持されるというのである。PAR1bのリン酸化を受けない変異体はMDCK細胞の頂端部膜に入り込み、非対称な膜ドメインが異常な成長をする原因となるという結果は、このモデルを裏付けている。

doi:10.1038/fake572

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