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アクチン重合を制御する
Nature Reviews Molecular Cell Biology
2005年3月1日
Toshimaらは位置指定突然変異誘発法を使い、Prk1による選択的なリン酸化を受けないPan1タンパク質変異体はアクチンの大きな凝集塊を作り出し、Prk1やArk1(Prk1に近縁のキナーゼ)に変異が生じた細胞で以前に観察されているのと同じようなエンドサイトーシスの欠陥が生じることを明かにした。さらに実験を行ったところ、Pan1がずっと脱リン酸化されたままだとフィラメント状のアクチン(Fアクチン)からなる構造が作られ、これがエンドサイトーシスにかかわる成分と結合することがわかった。
Pan1がPrk1の下流の標的であることは、以前に行われた機能喪失実験からわかっている。ToshimaらはPrk1がPan1のN末端を直接リン酸化して、そのArp2/3活性化機能を阻害することを明らかにした。Pan1がリン酸化されるとおそらくFアクチンとの会合が妨げられ、それによってArp2/3の活性化が阻害されるのだろう。なぜなら、Fアクチンと結合できないPan1の短縮型変異体も同じく、Arp2/3をin vitroでもin vivoでも活性化できなくなるからだ。構造機能解析から、Pan1はWiskott-Aldrich症候群タンパク(WASP)ホモロジー2(WH2)様モチーフを含み、これがArp2/3の活性化に必要なことがわかった。しかし、以前調べられたWH2ドメインとは対照的に、Pan1のWH2様モチーフはGアクチン(アクチン単量体)とは結合しないが、Fアクチンとは結合可能であるという独特の性質を持っている。
だとすると、リン酸化されないPan1を発現する細胞で見られるアクチンの凝集塊は、アクチンの重合が制御されなくなった結果なのだろうか。著者らは、リン酸化されることがないPan1のFアクチン結合部位へ変異を導入しただけで、アクチン凝集塊の形成とそれに伴うエンドサイトーシスの異常が抑えられることを明らかにしたが、これは脱リン酸化されたPan1が極めて高い活性を示すことと矛盾しない。またこのことは、Arp2/3の活性化に先立って、FアクチンがPan1に結合する必要があることも明らかにしている。
Toshimaらは、これらのことに基づいて、以下のようなすっきりしたモデルを考案している。エンドサイトーシスの開始にあたって、Pan1はエンドサイトーシスにかかわるタンパク質と細胞膜で結合してArp2/3複合体を活性化し、アクチンの重合を促進する。Prk1によるPan1のリン酸化が起こるとPan1はFアクチンと結合できなくなるのでエンドサイトーシス装置から解離し、そのためにArp2/3活性化因子としての機能が果たせなくなる。その後Pan1はおそらく、やはりエンドサイトーシス成分として同じエンドサイトーシス装置に戻り、新しい反応サイクルが開始されるのだろう。
Pan1は受容体依存性エンドサイトーシスの重要な構成成分であるけれども、Arp2/3複合体の唯一の活性化因子というわけではない。著者らはすでに、Pan1の表現型と、WASPと類似のタンパク質であり、Arp2/3の活性化因子であることがわかっているLas17に変異が起こった場合の表現型のかなりの部分が重複することを明らかにしている。Las17もまたPrk1が仲介するリン酸化による調節を受けているかどうかがわかればおもしろいだろう。しかし、酵母を使ったToshimaらの研究結果が、もっと複雑な生物にもあてはまるのかどうかはまだわからない。そしてこれは必ず心に留めておくべきことだろう。
doi:10.1038/fake577
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