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Nature Reviews Molecular Cell Biology
2005年10月1日
S ZinkelらはBIDが欠損している前骨髄細胞(MPC)株では染色体が著しく不安定化することを見いだし、これらの細胞ではDNA損傷物質、とくに複製ストレスを引き起こす物質に対する感受性が増大することを明らかにした。またI Kamerらは、BID欠損マウス胚繊維芽細胞(MEF)では、いくつかのDNA損傷物質に対する感受性が逆に低下することを見いだした。DNA損傷の影響は明らかに細胞の種類やシグナル伝達によって異なるようだが、これら2組の観察結果はいずれも、BIDがDNA損傷応答になんらかの役割を持っていることを示していた。
実際、両方のグループがBID-/-細胞では複製ストレスを被った後、あるいはエトポシド(トポイソメラーゼ2の阻害剤)処理後にもS期細胞の集積が起こらず、野生型BIDを再発現させるとこの欠陥が回復することを明らかにした。Zinkelらは、S期細胞集積が回復するのにBIDのBH3ドメイン(アポトーシス誘導にかかわる)は必要でないことを見いだした。これはBIDのS期における役割がアポトーシス誘導ではないことを示している。また、2つのグループは共に、DNA損傷が起こるとBIDが核に局在するようになることを明らかにしたが、このことからもBIDは細胞内の局在場所によって異なる機能を発揮しているらしいと考えられる。
Kamerらは、DNA損傷物質で処理した細胞を溶解してウェスタンブロット法による解析を行い、二本鎖切断を起こす物質はBIDのリン酸化を誘発することを初めて見いだした。Zinkelらもその上、複製ストレスを起こす物質に対してこれと同様のリン酸化が起こるのにも気づいた。BIDのリン酸化における主要なキナーゼは、in vivoではDNA修復キナーゼであるATM(ataxia-telangiectasia mutated)であるとわかったが、in vitroではBIDはATMおよびその近縁のキナーゼであるATR(ATM and RAD3-related)の基質となる。マウスのBIDタンパク質では、どちらの酵素にも共通のリン酸化部位であるS61とS78がリン酸化される。
では、BIDを欠く細胞ではS期にはどんなことが起こっており、またBIDのリン酸化はDNA損傷応答にどのようにかかわっているのだろうか。Zinkelらはこれらの疑問を解明するために、複製ストレスを起こす物質での処理の後に起こる複製停止の詳しい性質を調べた。BID+/+のMPCはS期複製停止を起こすが、BID-/-は起こさなかった。この結果は初代活性化T細胞でも確かめられた。野生型BID、およびBH3ドメインに変異が生じたBIDはS期停止の異常を救済できたが、S78がリン酸化できないS78A変異体では救済できなかった。これは、BIDのS期チェックポイントでの役割に、S78のリン酸化が必要なことを示している。Kamerらもまた、リン酸化されないBID変異体を発現しているBID-/-細胞は、野生型のBIDを発現しているものに比べて、DNA損傷が原因のアポトーシスを起こしやすいことを明らかにした。つまり、細胞周期停止を起こせなくなったBID変異体は、BIDに欠陥のある細胞のDNA損傷に対する感受性を増大するのかもしれない。
これら2つの研究は、DNA損傷におけるBIDの役割はまぎれもなく、細胞周期停止(およびおそらくはそれに続いて起こるDNA修復)とアポトーシスのバランス、言い換えれば、細胞の生存と細胞死の間のバランスをとることであるのを示している。細胞がこのどちらの道をとるかは、おそらく前後の状況(細胞の種類も含めて)やDNA損傷の度合いや種類によって決まるのだろう。
doi:10.1038/fake584
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