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ストレスたっぷりの日のために

Nature Reviews Molecular Cell Biology

2005年12月1日

ゲノムは、自身が持っている遺伝子の発現を調節する方法を多数作り出してきた。今回、新しい発現調節機構がD Spectorらによって発見され、Cellに報告されている。彼らは、普段は核内に保留されているが、ストレスに応じて切断され、翻訳可能なmRNAとして細胞質に放出されてタンパク質に翻訳されるRNAを見つけたのである。これは、RNAの核内保留が持つ役割の1つが、遺伝子発現調節であることを示している。

核スペックルとして知られている核内構造にポリ(A)+RNAが豊富に存在するという以前の報告に興味を持ったSpectorらは、この核スペックル中にあるポリ(A)+RNAを単離して性質を調べることにした。その結果、CTN-RNAと名付けたRNAが、マウスのcationic amino-acid transporter-2遺伝子(mCAT2)にコードされており、ごく一部は核スペックルに局在しているが、大半はその近傍にあるパラスペックルと呼ばれる核内領域の方に局在していることがわかった。

RNAを核内に保留する機構はわかっていないが、アデノシン(A)からイノシン(I)へのRNAエディティング(A-to-I エディティング)と呼ばれる塩基置換過程の結果ではないかと考えられている。そこで著者らは、CTN-RNAがRNAエディティングを受けるかどうかを調べた。複数のCTN-RNAクローンの塩基配列比較から、A-to-Iエディティングが3'非翻訳領域(3'UTR)で起こっていることが明らかになった。しかし、レポーター遺伝子解析からは、CTN-RNAの3'UTRでは核内保留に不十分で、転写体全体が必要だとわかった。これは、3'UTRのA-to-Iエディティングだけでなく、全長RNAが特別な折りたたまれ方をすることも核保留に重要であることを示していると考えられる。

Spectorらは、CTN-RNAの機能を調べるためにアンチセンスオリゴヌクレオチドを使ってCTN-RNAをノックダウンし、ノックダウンに伴ってmCAT2mRNAのレベルが低下することを見いだした。mCAT2タンパク質は一酸化窒素合成経路で機能しており、一酸化窒素はストレス条件下で誘導される。ストレスに曝された細胞では、CTN-RNA濃度の低下が見られ、それに伴ってmCAT2mRNA濃度が上昇した。ノザンブロット解析から、ストレス条件下ではCTN-RNAは3'UTRのところで切断され、タンパク質をコードしているmRNAが放出されるとわかった。つまり、ストレスを被っていない細胞ではCTN-RNAは核内に保留されてmCAT2mRNAの濃度を調節しているのだが、ストレス条件下におかれるとCTN-RNAは翻訳可能なmRNAとなって放出され、mCAT2タンパク質が速やかに生産されるのである。
CTN-RNAとその作用機作が見つかったことから、遺伝子発現の新規な調節例が明らかになった。そしてSpectorらはこの種の調節が環境シグナルへの迅速な対応を可能にしているのではないかと考えている。また、こうした知見は、A-to-IエディティングがRNA核保留機構にかかわっていることを示しており、パラスペックルがA-to-Iエディティングを受けた核RNAの貯蔵所である可能性も浮上してきた。

doi:10.1038/fake587

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