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競合のもたらす抑制

Nature Reviews Immunology

2003年3月1日

The Journal of Experimental Medicineに掲載された1つの論文が、調節性T細胞(TReg)という概念の基盤となっている多くの実験結果の解釈に疑問を投げかけている。

末梢T細胞プールの恒常性は、自己ペプチドMHC分子とインターロイキン7の競合を基盤とすると考えられている。TReg細胞の研究に使われるリンパ球減少症のモデル動物では、このバランスが崩れており、このことがTReg細胞を欠く系で見られる自己免疫や炎症に関する1つの説明となるかもしれない。

恒常的な増殖を促すシグナルに対する競合がTRegを介する抑制の機構であるかどうかを調べるために、Barthlottらは、普通に使われているマウスモデルを選んで実験を行った。このマウスでは、少量のCD4+CD45RBhiT細胞が、リンパ球を欠くRag-/-の宿主に移入されている。この移入の結果として消耗病が起こるのだが、それはCD4+CD45RBlowT細胞、つまりTRegと想定されている細胞を一緒に移入することで防止できる。

著者らは、この防御効果が恒常性因子に対する競合が原因だとすれば、CD4+CD45RBhiT細胞よりも速く増殖する細胞集団ならどんなものでも、病気を防止できるはずだと考えた。そして、多クローン性のCD4+CD45RBhiT細胞をまず単独で、さらにCD4+CD45RBlowT細胞または単クローン性のT細胞受容体(TCR)トランスジェニックAND T細胞と共に、H-2Ekを発現しているRag-/-マウスへと導入してみた。AND T細胞は、H-2Ek宿主中で活発に増殖し、病気の防御に関して「調節性」のCD4+CD45RBlowT細胞と同程度有効であった。H-2b宿主中では、AND T細胞の増殖はさほど活発でなく、H-2bRag-/-マウス中では防御能力は失われていた。このことから、AND T細胞の防御能力がその増殖能と関連していることがわかる。

しかし、この競合による抑制作用はTCR-トランスジェニックT細胞に見られる特異な性質というだけのものなのだろうか。著者らは、かなりの量のナイーブCD25-CD45RBhiT細胞(TReg細胞集団を全く欠く)の移入が、病状を悪化させるのでなく、部分的ながら防御効果を与えることを示した。つまり、正常なT細胞が、限られた供給源に関して競合することにより、自己抑制的な能力が付与されるのである。

競合能力が増大した細胞は自己ペプチドMHCに対するアビディティが高いと予想されるだろう。これを調べるため、CD25-CD45RBhiT細胞を、CD5(高アビディティのマーカー)の発現に関して選別し、Rag-/-マウスに移入してみた。アビディティの低いCD5lowT細胞を導入されたマウスは、選別を受けていないCD25-CD45RBhiT細胞を導入されたマウスより発症が早かったが、CD5hiT細胞を導入されたマウスでは発症が遅くなった。

つまり、この研究は、著者らが以前に発表したように、調節性は実際には「特別な仕事」ではなく、「どの細胞もやるべき仕事」なのだという刺激的な考えを裏付けるものといえよう。

doi:10.1038/fake598

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