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炭疽菌の武装解除作戦

Nature Reviews Immunology

2003年8月1日

病原体である細菌は、宿主の免疫系の監視を逃れるためにさまざまな戦略を用いている。今回、Natureに発表された新たな研究で、炭疽の病原菌は、樹状細胞(DC)と適応免疫応答を免疫回避作戦の標的としていることが明らかになった。
炭疽菌は、主要な病原性因子を2つ持っている。その1つは夾膜で、これは炭疽菌をファゴサイトーシス(食作用)から守る。もう1つが炭疽毒素である。炭疽の毒素は3種類の成分からなり、浮腫因子(EF)と致死因子(LF)という2つのAサブユニットと、防御抗原(PA)と呼ばれているBサブユニット1つが含まれている。PAとLFは致死毒素(LT)として知られている複合体を形成し、これを静脈内に注射されたマウスは死亡する。
LTの樹状細胞に対する影響はまずin vitroで調べられた。Agrawalらは、LTに曝露されたDCでは、抗原によるチャレンジに応答して炎症誘発性サイトカインを分泌したり、共刺激分子を発現したりする能力が大幅に減少することを見出した。生存性を調べると、LTのDCに対する抑制的な影響は、マクロファージの場合とは対照的に、細胞死を引き起こすためではないとわかった。さらにin vitroで実験が行われ、LTで処理されたDCは、ナイーヴT細胞を効率よくプライミングできないことが示された。
炭疽のLTが、in vivoでもDCの機能を損なうかどうかを調べるため、抗原特異的なCD4+T細胞を追跡観察できるようなトランスジェニックマウスをモデルとして使った実験が行われた。LT処理されたDCでは、in vivoで、抗原特異的なCD4+のプライミングができなかった。この結果は、T細胞が最初は活性化されるが、分化して記憶細胞になれないことを示唆している。LTを注射しておいたBALB/cマウスに、抗原によるチャレンジを行うと、抗原特異的T細胞とB細胞の応答が減損し、LTがDCに影響を及ぼした結果としてin vivoでも適応免疫応答が損なわれることが確証された。
最後に、著者らはLTの作用機作を確かめた。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の下流にあるエフェクターのリン酸化に対するLTの影響を調べることと、LFタンパク質変異体の影響の解析から、LTはMAPキナーゼ・キナーゼ(MEKあるいはMAPキナーゼ-ERKキナーゼ)を切断することにより、MAPKの関わるDC細胞内シグナル伝達経路を崩壊させるとわかった。以前の研究から、LTがマクロファージの機能を破壊するのに使っている機構もこれと同じであることが明らかになっている。
DCはしばしば、侵入微生物を探して体内をパトロールする、ヒトの免疫系の「歩哨」に当たると言われる。炭疽菌は、このようなもっとも有能な抗原提示細胞ですら武装解除してしまう能力を持つことが今回明らかになったわけで、これは印象的な結果だといわざるを得ない。

doi:10.1038/fake602

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