Highlight
TLRシグナル伝達
Nature Reviews Immunology
2003年9月1日
Bruce Beutlerらは、ENU(N-エチルニトロソ尿素)を使った突然変異誘発によりマウスの変異体をランダムに作るという、前向きの遺伝学的手法を用いた。そして変異マウス由来の腹腔マクロファージについて、in vitroでさまざまなTLRリガンドで刺激することにより、その自然免疫について調べた。Lps2という表現型を持つマクロファージは、リポ多糖(LPS)と二重鎖RNAに対する腫瘍壊死因子(TNF)の応答に欠陥を示した。LPSと二重鎖RNAはいずれも、TLR4とTLR3に対するリガンドである。さらに実験を重ねたところ、MYD88非依存性経路のIFN-β産生の上流に位置する、リン酸化IFN調節因子3(IRF3)二量体が形成されないことがわかった。しかし、MYD88経路には何ら障害は見られなかった。Lps2ホモ接合体由来の、LPS活性化マクロファージでも、TLR4の活性化後に起こるMYD88 とMALの移動と、それに続くERK1/2、p38マイトージェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびJUN N-末端キナーゼ(JNK)のリン酸化は予想通り起こった。にもかかわらず、Lps2変異のホモ接合体マウスは、TLR4を欠くマウスよりは低いにしても、LPSの致死的な影響にかなりの抵抗性を示した。また、サイトメガウイルスの感染に対しては、極めて高い感受性を示した。
そこで、Lps2表現型についてマッピングが行われ、異常が起こっているのはTrif遺伝子中の一塩基対であることが突き止められた。2つの遺伝子座における変異を併せ持つ複合ホモ接合体(TrifLps2/Lps2,Myd88-/-)が作成され、LPSシグナルの伝達経路は、Trfを介する分岐路とMyd88/Malを介する分岐路という2つだけであると結論された。これらの分岐路はどちらも、LPSの毒性を完全に発現させるのに必要である。
Shizuo Akira(審良静男)らは、Trif-ノックアウトマウスを作出し、Trifの生理的な役割を調べた。このマウス由来のマクロファージでは、TLR3のリガンドであるポリI:Cに応答して起こるIFN-βの生産が見られなくなった。また、LPSに誘発されるIFN-誘導性遺伝子の発現も低下していた。これらのことは、MYD88非依存性TLR4シグナル伝達経路に欠陥があることを示唆している。またこの場合も、Beutlerらの研究結果と同じく、IRF3の二量体形成に欠陥が見られた。
これら2つの研究から、TRIFがMYD88非依存性シグナル伝達経路に関わっていることが明らかになった。マウスゲノムもヒトゲノムも、TIRドメインを持つアダプターは少なくとも5つ含まれていることが知られているから、TLRシグナル伝達の基盤が完全に解明され、異なる結果を生じるような、伝達経路の見かけの縮退がうまく説明されるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
doi:10.1038/fake603
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