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除去を免れるT細胞

Nature Reviews Immunology

2004年1月1日

ずっと以前から、胸腺におけるT細胞の選択の欠陥は、自己免疫を引き起こすのではないかと疑われてきた。今回, Shimon Sakaguchiらは、ζ-鎖結合タンパク質70(Zap70)遺伝子に起こった一塩基変異が原因で発病した自己免疫性関節炎のマウスモデルで、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達の閾値が変化し、自己反応性のT細胞が除去できなくなることを報告している。 Sakaguchiらは、BALB/cマウスから得たSKG株のマウスで、ヒトの慢性関節リウマチに似た慢性関節炎が自発的に発症することを観察した。関節の腫れは当初、前肢指関節に限られるが、後肢、手首、くるぶしに広がり、それに伴ってリウマチ因子の力価が高くなった。腫れた関節の免疫組織化学的性質を調べたところ、細胞の顕著な浸潤が起こっていることが明らかになり、それにはCD4+T細胞も含まれていた。これらの細胞をT細胞を欠くレシピエントに移植すると関節炎を引き起こすので、疾患に関わっていることが明らかになった。 Skg遺伝子座は、第一染色体上のZap70遺伝子を含むことが知られている領域にある。さらに解析を進めたところ、SKGマウスのZap70では1ヌクレオチド置換が起こっていることが突き止められた。この変異によりカルボキシ末端側のSrcホモロジー2(SH2)ドメインの最初のアミノ酸残基が変更されていた。ヒトの正常なZAP70をSKGマウスに遺伝子導入して発現させると、関節炎の進行がくい止められ、この変異が疾患の原因であることが立証された。 SKGマウスのT細胞はCD3特異的抗体による多クローン性刺激や特殊なペプチドへの増殖的応答が減少していることがわかった。これはおそらく、既に観察されている重要なシグナル伝達物質のリン酸化レベルの低下やZap70がTCR-ζに結合できないことが原因で起こったと考えられた。 オスのH-Y抗原(HY-TCR)に特異的なMHCクラスI拘束性TCRを遺伝子導入により発現するT細胞は、メスのマウスでは効率よく選択されるが、オスの場合は負の選択を受ける。しかし、Sakaguchiらは、これらのTCR-トランスジェニックマウスをホモ接合型SKGをバックグラウンドに持つ系統と交配すると、HY-TCR+CD8+T細胞の選別がオスのマウスでも効率よく起こるようになることを見出した。これはSkg変異が本来なら負の選択を受けるべきT細胞に正の選択をもたらすことを示している。この考えは、MHCクラスII拘束性TCRを発現しているSKGマウスでは、遺伝子導入されたTCRlowCD4+T細胞集団で、内在性のTCR-α鎖を発現するものが、野生型のTCRトランスジェニックマウスより多いという観察によってさらに裏付けられた。 これらの結果は、TCRの関わるシグナル伝達経路に影響を与えて、T細胞選択を崩壊させるような遺伝的変異が、マウスの自己免疫を引き起こし得ることの証拠であり、Sakaguchiらは、同様の変異がヒトでの慢性関節リウマチの発症にも重要なのではないかと考えている。

doi:10.1038/fake607

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