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Nature Reviews Immunology

2004年6月1日

Cell誌に掲載されたNora Sarvetnickたちの研究で、T細胞の数の不足が自己免疫の原因になることがあるという、意外な事実が明らかになった。この事実が示すように、免疫系が忙しく働いていることは実は望ましいことのようで、「衛生的とは言えない」環境にも利点があることがこれで説明できる。
Sarvetnickたちによれば、雌の自己免疫性NOD(非肥満性糖尿病)マウスは、自己免疫が発生しない対照マウスに比べ、末梢のCD4+T細胞数が少ないという。このリンパ球減少と病気の発生には関連性があることがわかった。NODマウスに完全フロインドアジュバント(CFA;T細胞を刺激する結核菌の細胞壁成分を含む)を注射してT細胞数を増加させると、糖尿病の発症が防げたのである。また、NOD同腹子からとったT細胞を注入しても糖尿病が抑えられるので、この糖尿病を防ぐ効果は、表現型よりもT細胞の数そのものによるらしい。
放射線照射などで人為的にリンパ球を減少させると、残ったT細胞が増殖して、生じた「空席」を埋める。NODマウスでもこのような恒常性維持型の増殖が起こるかどうかを調べるようと、Sarvetnickたちは、膵β細胞に特異的なT細胞受容体(TCR)を発現する標識NOD T細胞をさまざまな宿主に移植して観察した。これらのTCRトランスジェニックT細胞は、リンパ球が減少したNODマウスでしか増殖せず、CFAを投与したNODマウスでは増殖しなかった。通常の活性化を受けたT細胞と恒常性維持型増殖したT細胞とを区別するために、CD62Lなどの細胞表面マーカーを解析してみると、リンパ球が減少していない自己免疫を起こさないマウスに比べ、NODマウスの天然型T細胞集団の方が、恒常性維持型の増殖をする率がはるかに高いことがわかった。とくに重要なのは、T細胞が最も増殖したのは膵島炎の症状が最も重いNODマウスで、このことは、恒常性維持型増殖と病気とに直接の関連があることを示している。
NODマウスのリンパ球減少の説明として考えられるのが、NODマウスにおけるIL-21生産量の増加で、これがT細胞でのインターロイキン-21受容体(IL-21R)の発現亢進に結びつく。IL-21に対する反応性が上昇していることは明らかである。IL-21は最近同定されたγcサイトカインファミリーの一員で、このファミリーに属する他のタンパク質(IL-7など)はT細胞の増殖と生存にかかわっている。しかしIL-7とは対照的に、IL-21では試験管内in vitroでのT細胞の生存を維持できない。NODマウスのIL-21R+T細胞は、急速に増殖するが生き残れず、長寿命の記憶T細胞数の低下が起こる。刺激を受けたT細胞の寿命が短いことを裏付けるように、これらの細胞では、抗アポトーシス分子であるBcl-2やBcl-XLの発現が亢進しない。このモデルの自己免疫感受性にIL-21が重要な役割をもつことは、IL-21遺伝子が、第3染色体上にあるNOD感受性にかかわる遺伝子座に存在することともよく一致する。
Sarvetnickたちは、リンパ球が減少した環境では、手に入りやすい抗原に対する特異的T細胞が増殖しやすいのだろうと考えている。多くの場合、胸腺で除去され損なった自己反応性T細胞がこれに相当することになる。小児期に「過度に清潔な」環境にあると、細菌やウイルスによる免疫系の刺激が継続して起こらないため、リンパ球が減少した状態になる可能性がある。現代の「衛生的な」社会で自己免疫疾患が増えているのは、これで説明できるかもしれない。

doi:10.1038/fake611

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