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造血肝細胞を管理する

Nature Reviews Immunology

2004年11月1日

造血幹細胞(HSC)は条件によっては大規模に増殖することがあるが、正常な成体内では多くの場合細胞分裂を行わない休止状態にある。そして、HSCの増殖を促進する核内因子は多数見つかっているのに対し、HSCの増殖をくい止める因子の同定は困難とされてきた。しかし今回、転写抑制因子であるGFI1(growth-factor independent 1)がHSCの増殖を制限していることを示す研究が2つ発表されたのである。

GFI1は以前にT細胞の増殖を促進することが明らかにされている。GFI1はHSCで発現されるので、今回論文を発表した2つのグループはともに、GFI1はHSCの増殖も促進するかどうかを解明することにした。Hockらは、GFI1を欠くマウスの骨髄ではこの表現型を持つHSCの数が、野生型の同腹仔に比べて、少なくとも同じ程度で、場合によって多く存在するという意外な結果を得た。これに対して、ZengらはGFI1欠損マウスの骨髄ではこの表現型を持つHSCが減少していることを観察した。しかし、どちらのグループも、HSCの機能は低下していることを見出した。致死量の放射線照射を行ったマウスにGFI1欠損マウスの骨髄と野生型マウスの骨髄の混合物を移植すると、マウスの加齢に伴ってGFI1欠損HSCが排除され、GFI1欠損骨髄由来の造血細胞は見られなくなった。これらの結果、また累代移植アッセイでの、GFI1欠損骨髄の移植を受けたマウスの骨髄は、致死量照射を行った二次被移植マウスの造血系を再構築することはできないという観察結果から、GFI1はHSCの自己複製化と移植組織の生着機能に重要であることが確かとなったのである。

さらなる解析の結果、GFI1欠損骨髄のHSCでは、多くが細胞周期の増殖段階にあることが示され、GFI1はHSC増殖を抑制していると考えられるようになった。GFI1の役割が増殖と細胞周期進行の調節であるという考えは、G1チェックポイント調節因子であってHSCをG0期(静止期)に留めるのに必要なp21(CIP1あるいはWAF1とも呼ばれる)をコードしているmRNAのレベルがGFI1欠損HSCでは低下しているとわかったことと一致する。

これらの研究は、GFI1がHSC増殖の負の調節因子であることを突き止めたもので、どちらのグループもGFI1欠損HSCで起こる過剰な増殖は自己複製能を消耗させると考えており、観察された自己複製能の消失はその結果だろうとしている。HSCの増殖を抑制する因子というこの役割は、GFI1がT細胞の増殖を促進するという観察結果とは正反対である。このことは、転写因子の機能は環境条件に依存して変わり、細胞種に特異的であることをはっきりと示しているといえよう。

doi:10.1038/fake615

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