Highlight
標的をねらい打ち
Nature Reviews Immunology
2005年7月1日
以前に、非肥満性糖尿病(NOD)マウスの膵臓に浸潤するCD4+T細胞のほとんどが、インスリン、特にインスリンB鎖の9-23ペプチドを認識することが明らかにされた。そこで、中山真紀らは1型糖尿病の発症におけるこの応答の役割を調べるために、2つのインスリン遺伝子(Ins1およびIns2)を欠くが、その代わりにプロインスリン変異体をコードする導入遺伝子が組みこまれたNODマウスを作出した。この変異プロインスリンは、インスリンB鎖の第16番目のアミノ酸1個が置換されており、インスリンとしての代謝活性は保持しているが、浸潤性T細胞による認識は起こらない。この修飾型インスリンを発現しているIns1-/-Ins2-/-NODマウスは全てが膵島細胞に対する免疫応答の兆候を示さず、糖尿病を発症することもなかった(ただし唾液腺で自己免疫反応が起こっているのは明らかだった)。これとは対照的に、これらのマウスにインスリン遺伝子のどちらかが存在するとそれだけで再び糖尿病が起こり、この2つのインスリン遺伝子がともに臓器特異的な自己免疫の標的として重要な役割を持っていることが確認された。
ヒトの自己免疫病の研究は、マウスでの研究とはちがい、問題の標的組織あるいはその領域リンパ節の不足あるいは不安定さによって妨げられることが多い。しかし、第2番目の研究で、Kentらは1型糖尿病を持つ3人の患者(2人はずっと以前に発病しており、1人は最近の発病)と対照群となる3人から生存可能な膵臓領域リンパ節を採取した。これらのリンパ節標品から、著者らは単一T細胞をランダムにクローン化し、T細胞受容体(TCR)のレパートリーと抗原特異性を調べた。対照個体の膵臓領域リンパ節から単離されたT細胞クローンは、不均一なTCRレパートリーを発現しており、ポリクローナルな増殖をしていることが示された。これに対して、長期間糖尿病を患っていた患者由来のT細胞クローンの半分以上が同じVβ鎖を発現しており、これらのクローンの半分が同一のTCRα鎖を持っていて、共通の前駆細胞から抗原刺激によって増殖したものと考えられた。長期糖尿病患者由来のクローンはインスリンAのペプチド1-15に特異的に応答して、投与量依存性の増殖が起こったが、対照群由来のクローンではそうならかった。この応答は、MHCクラスII遺伝子座であるHLA-DRB1*0401拘束性であったが、この遺伝子座は糖尿病への遺伝的感受性にかかわることが知られている。
長期糖尿病患者由来のT細胞のインスリン特異的応答が、こうした患者が血糖価を調節するために毎日受けているインスリン注射が原因で起こったという可能性を排除するために、Kentらは長期糖尿病患者の一人の脾臓中にインスリン反応性T細胞が見出されないこと、また2型糖尿病患者の膵臓領域リンパ節由来のCD4+T細胞クローンはプロインスリンペプチドを全く認識しないことを明らかにした。
多くの自己免疫病について、どの自己抗原が自己免疫を惹起するのかはまだわかっていない。しかし、これら2つの論文ではインスリンが重要な役割を持つことが実証されたわけで、これが糖尿病患者に対する抗原特異的免疫寛容療法を開発出きる確率が上がるのはまちがいないだろう。
doi:10.1038/fake622
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