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HSCはどうやってニッチを見つけるか

Nature Reviews Immunology

2006年2月1日

成体では、免疫系の全ての細胞を作り出す原始前駆細胞、つまり造血幹細胞(HSC)は、骨髄中の骨内膜表面にちかいところに存在している。この骨内ニッチにHSCを局在させるための制御には、多数の細胞表面受容体がかかわっていると考えられてきた。しかし、今回Natureに掲載された研究により、HSCが骨内膜ニッチに留まるのには、カルシウム感知受容体(CaR)の発現が不可欠であることが明らかになった。

骨内膜は骨の形成とリモデリングが常時行われている場所であり、それ自体カルシウムイオン(Ca2+)の濃度が高いという特徴を持つ。CaRは、細胞が細胞外Ca2+濃度を感知するための受容体の1つである。造血細胞の一部がCaRを発現していることは以前に明らかになっているので、AdamsらはCaRがHSCの局在に重要なのか、それともCaRは骨内ニッチでの機能に必要なのかを調べることにした。CaRは、骨髄から単離したLSK細胞(lineage(Lin)-stem-cell antigen 1(SCA1)+KIT+ cell)で発現されているとわかった。この細胞群は幹細胞の機能的特徴を備えた細胞を多く含んでいる。

CaRを欠くマウス骨髄は、CaRを多く持つ同腹の対照マウスに比べるとLSK細胞が大幅に減少している。このことは、LSK細胞でのCaR発現は、LSK細胞の骨内ニッチへの局在に重要だという考え方と一致する。さらに、コロニー形成能を長期間維持している細胞(in vitroでのHSC機能の指標となる)の数も、CaR欠失マウスの骨髄中では大幅に減少していた。これとは対照的に、CaR欠失マウスの脾臓と血液中では、LSK細胞の数が増大していた。CaR欠失マウス胎仔肝臓のLSK細胞の表現型と機能は正常であったから、LSK細胞の局在異常は、HSCの本質的な異常の結果ではない。これは重要な結果である。しかし、CaR欠失胎仔肝臓細胞を、致死量の紫外線を照射した野生型レシピエントへ移入しても細胞は骨髄に集合せず、CaRはHSCの骨内ニッチへの局在を制御する役割を持っていることが示された。

CaR欠失HSCが骨内ニッチに局在できないのは、骨髄へのホーミングの異常、あるいは骨内膜への留まることができないからかもしれない。CaR欠失胎仔肝臓LSK細胞は、骨髄へのホーミングに関わる細胞表面分子の発現量は正常であり、野生型胎仔肝臓細胞と同じくらい効率よく骨髄内に入るとわかった。ところが、CaR欠失胎仔肝臓細胞は細胞外マトリックスの成分であるI型コラーゲンへの結合能力に欠陥があり、骨内膜表面に物理的に付着する力が低下していることが明らかになった。

これらのデータは、HSCによるCaRの発現は、HSCが骨内ニッチに留まるために必要であることを示している。今回の結果は個体発生の際のHSCの骨髄への移動機構を示しており、幹細胞移植療法にも重要な関わりがあると著者らは考えている。

doi:10.1038/fake628

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