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放射からRad17まで

Nature Reviews Microbiology

2003年5月1日

真核細胞のゲノムは、紫外線(UV)または電離放射線(IR)などの潜在的有害因子によって絶えず攻撃されている。これに抵抗するため、細胞はチェックポイントを活性化する。これは、細胞周期を停止し、あらゆる損傷を修復する管理点である。多くのチェックポイント経路がこれまでに解明されているが、Robert AbrahamおよびXiao-Fan Wangらは、損傷が誘導するG2期チェックポイントの制御に関する新規の経路について、Nature誌に報告している。

分裂酵母での研究によって、いわゆるRadファミリーに属するRad17、Rad1、Rad9およびHus1などが、DNA損傷および複製のチェックポイントの活性化に関係していることがわかっている。Rad17は、チェックポイント活性化の早い段階で、損傷を受けたDNAにRad1/Rad9/Hus1複合体を結合させると考えられている。しかし、Rad17を制御しているものは何であろうか。

AbrahamおよびWangらは、どのタンパク質がRad17と関係しているかを調べることによってこの謎に取り組もうとした。免疫沈降法によって、ヒトRad17 (hRad17)と関係するふたつのチェックポイントキナーゼ(ATM['ataxia-telangiectasia, mutated']およびATR[ataxia-telangiectasia and Rad3-related kinase])との相互作用が解明された。この相互作用は、細胞がIRに曝露された場合に(ATRについてはUVに曝露された場合にも)亢進した。 では、hRad17は各キナーゼの基質となるのであろうか。著者らは、野生型ATRが実際にhRad17をリン酸化できることを、in vitroおよびIR照射した未処置細胞で確かめた。いくつかの生物種でRad17のセリン残基がふたつ保存されており(Ser635およびSer645)、リン酸化にはこれが重要であった。次にAbrahamおよびWangらは、酵素活性のない変異型ATR(ATRKI)を過剰発現させ、UV照射したときのSer635およびSer645のリン酸化が大幅に抑制されることを示した。しかし興味深いことに、IR照射に対するSer645のリン酸化は、ATRKI発現ほど敏感でなかった。このことは、IRに対するhRad17のリン酸化はATMが媒介し、それ以外の遺伝毒性ストレスへの応答はATRが制御する、というモデルに即している。

hRad17とATM/ATRとの相互作用の機能的重要性を調べるため、著者らは重要なセリン残基をふたつともアラニンに置換した変異型hRad17(hRad17AA)を過剰発現させた。細胞は、IRを照射されるとG2/M期チェックポイントが活性化できなくなり、その多くがアポトーシス的な死の徴候を呈した。さらに解析すると、hRad17AAはリン酸化されていなかったものの、ATRおよびATMとの相互作用能は保持されていた。

最後に、AbrahamおよびWangらは、hRad17とhRad1/hRad9/hHus1複合体との相互作用がhRad17のリン酸化によって調節されているのかどうかを、hRad17AAを使用して調べた。野生型hRad17はIR照射するとhRad1と共沈したが、やはりhRad17AAを使用したときにはこの複合体がみられなかった。

よって、ATMおよびATRは、hRad17の上流にある制御因子であると結論づけられる。本研究は、単にDNA損傷が誘導するチェックポイント経路での各キナーゼの重要性を裏づけるばかりではなく、hRad17が遺伝毒性ストレスへの応答の主役であることをも示している。

doi:10.1038/fake734

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