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Nature Reviews Microbiology

2003年12月1日

窒素を利用できることが増殖およびバイオマス生産を限定する要因となることが多いことから、窒素固定は地球上の最も重要な生物学的過程のひとつといえる。今回、窒素固定細菌であるシアノバクテリア(藍色細菌)の異質細胞を持つおよび持たない種の地球上の分布の違いの原因を明らかにする研究結果が発表された。  異質細胞を持つシアノバクテリアは糖脂質層のエンベロープに包まれた分化した細胞でニトロゲナーゼの酸素分子による阻害を防御するため、異質細胞を持たないシアノバクテリアよりもN固定に対する適応性が高いと考えられている。ところが、熱帯海域で窒素を固定する主要なシアノバクテリアは異質細胞を持たないTrichodesmium 属の種である。実際に、異質細胞を持つシアノバクテリアと持たない種の地球上での分布は大きく異なり、淡水湖および汽水環境(バルト海など)では異質細胞を持つシアノバクテリアが優勢であるのに対して、熱帯海域ではTrichodesmium類が優勢である。Trichodesmium類は温帯海域あるいは極域海域には分布していなかった。  今回、Staalらは、このような分布の違いに関する2つの重要な課題についてNatureでの報告により解明された。この2つの問題はすなわち、どうして浮遊性の異質細胞を持つシアノバクテリアが熱帯海域における優勢なN固定生物ではないのか、またはどうしてTrichodesmium類が温帯海域および極海域、淡水や汽水環境で発育できないのかである。  アセチレン還元法を用い、著者らは異質細胞性Nodularia spumigenia CCY 9414株とAnabaena種CCY 9901株のニトロゲナーゼ活性を、Trichodesmium種IMS101株のニトロゲナーゼ活性と比較し、異質細胞およびdiazocyte(糖脂質層をもたない、N固定に特殊化されたTrichodesmiumの細胞)の暗やみでの窒素固定は、酸素の拡散により制限されることを示した。暗闇では、異質細胞あるいはdiazocyteへの酸素の流入が制限されるため、呼吸によるATP生産が窒素固定を制限する。しかし、明るいところでは、光合成による電子伝達系からATPが産生されるので、ATPの利用可能性は制限因子とはならないという。  著者らはさらに、温度上昇がN固定細胞への気体流量および酵素活性に及ぼす影響を調べた。温度上昇により溶解性酸素の濃度は減少するが、気体拡散係数は上昇する。したがってN固定細胞への気体の流量は正味では増加する。しかし、酵素活性の上昇は気体流量の上昇より速いので、温度の上昇とともに、ニトロゲナーゼ活性は基質により制限されることになる。これは効果的な拡散障壁のある異質細胞を持つシアノバクテリアで特に顕著である。また、異質細胞およびdiazocyte両者の酸素流入のモデリングより、Staalらは塩濃度が海水の35%から淡水の0%に低下すると、酸素の流量は25%上昇すると計算し、淡水状態では異質細胞における糖脂質エンベロープのような強力な拡散障壁が必要であることを強調した。  したがって、淡水状態では異質細胞の糖脂質エンベロープのおかげで異質細胞を持たないシアノバクテリアよりも選択的に有利になることから、Trichodesmium類が淡水湖にいないことが説明できる。しかし、温度の高い海洋性の生息環境では糖脂質エンベロープがあると不利なので、熱帯海域ではTrichodesmium類が優勢であることが説明できる。

doi:10.1038/fake736

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