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魔法のしくみ
Nature Reviews Microbiology
2004年7月1日
ppGppは、細菌がアミノ酸の飢餓状態にさらされた時の適応応答である緊縮調節を制御している。ppGppはRNAポリメラーゼに結合すると、翻訳装置に関連するタンパク質をコードする特定の遺伝子群の転写を阻害する一方、アミノ酸生合成経路に関与する成分をコードする遺伝子群の転写を促進する。負の調節を受ける遺伝子のプロモーター領域にはGCに富む「識別」配列が同定されているが、ppGppによる転写調節の仕組みはわかっていなかった。
Artsimovitchらは、高分解能でX線結晶構造を決定し、ppGppがRNAポリメラーゼの活性部位の近傍に結合していることを明らかにし、さらに、ppGppが反対方向を向いた2つのRNAポリメラーゼと結合することを発見した。2つの配向を、ppGppの5’位と3’位の2リン酸とRNAポリメラーゼの活性部位との近さにより5’あるいは3’配向と呼ぶことにする。このことから、ppGppの結合モードの違いがポリメラーゼの活性と関連することが示唆される。しかし、ppGppの向きの違いが転写の制御にどのように影響するのだろう。
RNAポリメラーゼの触媒活性には2個の触媒作用をもつMg2+イオンが必要であることがわかっている。興味深いことに、構造解析から、ppGppが5’配向で結合したRNAポリメラーゼの活性部位には触媒作用のあるMg 2+イオンが2個あるが、ppGppが3’配向で結合している場合には1つしか結合しておらず、このコンフォメーションでは転写は阻止されるのかもしれないことが示唆される。
さらに、著者らはppGppとDNAの非鋳型鎖との基質特異的な接触が重要であるとの仮定のもとに、結晶構造を用いてRNAポリメラーゼ開鎖複合体モデルについて検討した。非鋳型DNA鎖のシトシンと3’配向のppGppとの間では塩基特異的な接触が起こりうるが、5’配向では起こらないことがわかった。この予測される塩基特異的相互作用がppGppの役割に寄与するかを決定するために、プロモーター配列に変異を導入し、-1あるいは-2位のシトシンをチミンかグアニンに置換したところ、ppGppの開鎖複合体の安定性への影響が失われた。このことからも負の調節を受けるプロモーターにおいてシトシンが重要であることが明らかである。
本研究によりppGppの作用機構の詳細がわかり、マジックスポットの作用を裏付ける「魔法」が明らかにされた。得られた知見をもとに新たな抗菌薬の設計あるいは改良が可能になるだろう。
doi:10.1038/fake742
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