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イネいもち病菌は根に侵入する

Nature Reviews Microbiology

2004年11月1日

病原体がいかにして宿主の防御機構を突破し細胞に侵入し発病させるかを解明することは、病気予防策の開発における重要な一段階である。イネいもち病菌は葉の病気の感染メカニズムの典型であるが、根を通しても植物に侵入することができる。SesmaとOsbournは、イネいもち病の病原菌の生活環の全く新しい側面である根からの侵入メカニズムについてNature誌に報告した。

植物病原体は通常核となる一連の病原性因子を有するが、発症するのは葉、根、あるいは維管束組織など1種類の組織に限定されることが多い。Magnaporthe griseaは世界的に米の収穫に打撃を与える葉の病原体であり、メラニン化した付着器の膨圧を上昇させて葉の表面から侵入させるという巧妙な手段で葉に侵入する。M. griseaは根腐れを特徴とする穀類の立枯病の原因となる土壌病原菌、Gaeumannomyces graminisと同じ科に属する。

緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識した株の顕微鏡観察より、SesmaとOsbournは、M. griseaは付着器を用いるのではなく、菌足を用いて根に侵入することを明らかにした。菌足は立枯病に典型的な単純な侵入構造である。根に感染する菌類に特徴的な感染の明らかな症状として、ミクロ菌核(microsclerotia)、褐色の表面構造および穴のあいた菌糸の膨張した束が観察された。いったん根に侵入すると葉で見られるのと似た病原性が生じ、複数の厚い細胞内菌糸および内皮と中心柱への迅速な浸潤が生じる。機能性の付着器形成能を失った変異体でも菌足を形成し根に感染することより、葉と根からの侵入メカニズムは基本的に異なるようである。

根の病原性因子はどうであろう。立枯病の病原菌であるFusarium oxysporumは根への効果的な感染にFOW1を必要とするが、ゲノム配列の解析よりM. griseaFOW1同族体を有することが明らかにされた。M. griseaFOW1遺伝子を欠失すると根への定着および症状が制限されるが、葉への病原性は影響を受けないことがわかった。このことより、M. griseaはイネの根に感染すると共に、病原性因子を他の根に感染する菌と共有しており、さらに重要なことは葉と根は異なる戦略で病原性を生じることが確かめられた。

イネの根が病気の症状を呈するだけでなく、感染した植物の10%近くでM. griseaが地上部にまで伝播していもち病を生じており、これはM. griseaによる植物全体への感染の初めての報告である。さらに、無毒性遺伝子を有しM. griseaの葉からの侵入による発病を阻止する植物では、根からの感染にも耐性であることより、同じ1個1個の遺伝子メカニズムが葉にも根にも植物防御を媒介している。

これらの研究はまだ水田では検証されていないが、従来植物の地上部にのみ感染すると考えられていた病気に関して、土壌からの接種および根への感染が重要であることが示された。このことは、今後の品種改良および病気の制御に重要な意味がある。

doi:10.1038/fake745

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