Research Highlights

新鮮な空気をひと呼吸

Nature Reviews Cancer

2006年3月1日

低酸素状態と癌との関係は双方向性で、腫瘍は通常、低酸素応答につながる低酸素濃度下にあり、不適切な低酸素応答を引き起こす変異は癌につながる。Chiらは現在、一連の低酸素誘導性遺伝子の発現が、予後不良を強く示唆することを明らかにしている。

細胞は、低酸素誘導性転写因子(HIFs)を通じて低酸素状態に応答する。通常条件下では、HIF α-サブユニットはポリユビキチン化によって分解されるが、通常の低酸素条件下および腫瘍内では、その分解速度が低下する。

Chiらは、腫瘍細胞での発現と比較するため、初代培養した正常細胞での低酸素遺伝子発現シグネチャの特徴解明に乗り出した。低酸素応答は細胞の種類によって大幅に異なることから、数種類の上皮および間葉をサンプルとして用いている。各種類の細胞から、24時間にわたる低酸素状態に対する応答のうちのいくつかの時点で発現プロフィールを得た。クラスタリング分析からは、低酸素状態に応答してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされる遺伝子があり、共通しているものもあれば、細胞の種類特異的なものもあることが明らかになった。

癌腫は上皮細胞に由来するため、Chiらは培養した上皮細胞から得られたデータを用いて、低酸素によって常に誘導される一連の遺伝子 168個の特徴を明らかにした。また、乳癌および卵巣癌から得られた既報のデータセットをいくつか用いて、低酸素応答遺伝子の発現レベルが高い腫瘍は悪性度が高く、p53およびエストロゲン受容体が欠損している傾向にあり、そして何よりも生存期間が有意に短いことと相関することを突き止めた。

Chiらは、新しい腫瘍サンプルを簡易分析するため、低酸素誘導性遺伝子の平均発現レベルから「低酸素応答スコア」を求めた。乳癌試験データのひとつを用いて、このスコアをほかの予後指標と比較したところ、年齢、腫瘍サイズ、腫瘍悪性度、化学療法に対する応答といった従来の因子よりもすぐれた生存の指標であることがわかった。低酸素応答スコアの追加により、多変量解析の予後予測力は10%増大した。ほかに、類似した創傷治癒応答のシグネチャも分析対象とした。この両シグネチャは、弱い相関関係を示すに過ぎず、両者間では、分析の予測力の40%がこの両シグネチャによるものであった。

腫瘍にみる低酸素応答の性質およびそれが臨床転帰に影響を及ぼす上で担う正確な機械的役割は、未だ解明されていない。しかし、この試験は臨床的重要性がきわめて高く、さらには予後に関する仮説主導型遺伝子発現試験の力を証明している。しかも、このような試験は、ヒト癌にみる低酸素応答の原因と結果を特定し、この応答の程度が実際の腫瘍内酸素分圧に対応しているかどうかを解明する上で役立つ。

doi:10.1038/nrc1832

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