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Nature Reviews Cancer

2006年3月1日

血管内皮増殖因子(VEGF)の発現が、成人組織での血管新生時に生じる複雑な細胞間相互作用をどのように制御しているかは不明である。Eli Keshetらは最新のCell 誌で、骨髄由来細胞が、VEGFによって開始されるパラ分泌過程によって血管新生に寄与していることを示している。

Keshetらは、動物の飲料水からテトラサイクリンを除去して、肝または心臓のいずれかでVEGF導入遺伝子の転写スイッチがオンになるトランスジェニックマウスモデルを作製した。上記組織でのVEGF発現を誘導したところ、4日後に循環中の骨髄由来細胞の動員が明らかになり、その後、新血管が発生した。この細胞が循環中の骨髄由来細胞集団から動員されていることは、トランスジェニックマウスの骨髄と、グリーン蛍光タンパク質またはβ-ガラクトシダーゼを発現する同系の骨髄由来細胞とを共に移植することで確認された。特筆すべきは、骨髄由来細胞が既存組織の内皮に取り込まれた様子がなかったことで、この細胞は内皮前駆細胞として機能しないことが明らかになった。その代わり、骨髄由来細胞は血管周囲に局在した。この細胞を肝および心臓から単離して分析したところ、実際に、主として造血機能のあることがわかった。

Keshetらは、VEGFの発現がケモカインの発現を誘導し、それによって骨髄由来細胞が動員および保持されるのではないかとの仮説を立てた。骨髄由来細胞の遺伝子発現プロフィールを分析したところ、ほぼすべてにケモカイン受容体CXCR4が発現していることが明らかになった。重要なことに、CXCR4のリガンドであるCXCL12は、腫瘍細胞をはじめとする多種類の細胞をさまざま組織に動員して保持する中心であることがわかっている。 Keshetらは、心および肝臓でのVEGF発現が、血管を取り巻く細胞(大部分が線維芽細胞または平滑筋細胞)でのCXCL12発現を誘導することを立証した。このほか、血管新生の前立腺癌モデルの血管周囲にCXCL12が発現することも示している。VEGFが囲管性細胞でのCXCL12の発現をどのように誘導するかについては、明らかにされていない。

心または肝臓でのVEGF発現スイッチがオフになると骨髄由来細胞が消失することから、VEGFの発現はこの細胞の存在の維持に必要である。さらに、VEGFの存在下でCXCR4とCXCL12との結合を阻害しても、骨髄由来細胞の動員が阻害された。また、CXCL12の発現だけでは骨髄由来細胞は動員されなかったが、VEGFの発現スイッチがオフになっていても、この細胞は保持されていた。すなわち、VEGFおよびCXCL12の効果的な組み合わせが、循環中の骨髄由来細胞を動員して保持している。

最後にKeshetらは、この細胞の動員が、血管新生に何らかの作用を及ぼすかどうかを分析した。in vitro血管発芽アッセイからは、骨髄由来細胞がパラ分泌機序を通じて血管増殖を刺激できることが明らかになり、in vivoアッセイからは、骨髄由来細胞が、肝および心臓組織に常在する血管内皮細胞の増殖を刺激することが明らかになった。これは、CXCR4阻害因子によって骨髄由来細胞が保持されなくなると阻害された。

Keshetらは、CXCL12-CXCR4間の相互作用を途絶することが、抗血管新生療法の標的となりうると結論づけている。

doi:10.1038/nrc1822

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