Research Highlights

耐性をねらい打ち

Nature Reviews Cancer

2006年4月1日

癌細胞のほとんどが、広く使われているドキソルビシンのようなアポトーシス誘発剤に対する耐性を獲得する。B Stockwellらは、細胞生存性を測定するハイスループットスクリーニングとパスウェイ解析を使って、ドキソルビシンに耐性を示す癌細胞でドキソルビシンの致死性を高める化合物を見つけだした。

このスクリーニングには2つの結腸癌細胞系列が用いられた。その1つのRKOは、 DNA損傷応答タンパク質であるp53の発現レベルが高く、ドキソルビシン感受性であった。ドキソルビシンはトポイソメラーゼIIの働きを阻害するDNA 損傷性物質である。もう1つのRKO-E6は、p53の分解を誘導するウイルス腫瘍タンパク質であるE6を発現しており、ドキソルビシンに比較的耐性がある。Stockwellらは、E6によって生じる耐性にうち勝つ化合物ならば、RKO-E6細胞に対してドキソルビシンが再び致死性を示すように働くのではないかと推論した。1回目のスクリーニングでは3万種近くの化合物が調べられ、この内の278種が致死性を持つとわかった。2回目のスクリーニングでは、E6とドキソルビシンに依存しないで細胞死を誘導する化合物が除去され、88種が残った。

では、この88種の化合物が細胞をドキソルビシンに対して再び感受性とする機能は、どういう基盤によっているのだろうか。これが調べられ、意外にもp53 の発現レベルに影響を与えたのはたった1種類の化合物だけでだったので、著者らは化合物の作用機作を決めるために、共投与法を用いるパスウェイ解析法を開発した。この解析過程で、微小管機能阻害剤であるポドフィロトキシン、トポイソメラーゼIを阻害するDNA損傷薬であるカンプトテシンおよびドキソルビシンに対するRKO-E6細胞の感受性を増す化合物は、一般的な細胞死機構を介して働くと考えられたので除外された。カンプトテシンとドキソルビシンの両方に対する感受性は増大するが、ポドフィロトキシンに対する感受性は増大しない化合物は、おそらくDNA損傷応答の下流で作用していると考えられる。ドキソルビシンに対してだけ協力作用を示す化合物はトポイソメラーゼIIの働く部位あるいはその上流で働いているだろうと考えられた。そこで、これら2グループの化合物について、さらに詳しい解析が行われた。

著者らは、ドキソルビシンの致死性を回復する能力を持つ可能性のある化合物グループをいくつか見つけだした。これらには、第4アンモニウム塩化合物、タンパク質合成阻害剤、および1,3-ビス(4−モルフォリニメチル)-2-イミダゾリジネチオンを含む一群の低分子化合物が含まれていた。また、これらとは別の、以前には調べられたことのない低分子化合物群は、ドキソルビシンの致死性を選択的に増大する能力にちなんでインドキシンと命名された。このような化合物群は全て、トポイソメラーゼIIαの発現レベルを上昇させ、また(あるいは)RKO-E6細胞で細胞周期のS期での停止を誘導した。

インドキシンの作用機作をさらに詳しく解明するために、著者らは一連のインドキシン類似体を合成し、インドキシン・アフィニティプローブを用いて標的タンパク質を突き止めた。同定された5つのタンパク質の1つは、ミオシン1cであった。核のミオシン1cはトポイソメラーゼIIαの転写に関わっており、一方で細胞質中のミオシン1cはS期の細胞周期中止に関わっている可能性が考えられるが、これはミオシン1cの既知の機能と一致している。

ドキソルビシンの働きを促進するこれらの低分子化合物をドキソルビシン耐性癌に対するアジュバント療法に使う場合について、さらに研究が行われるのは確実である。

doi:10.1038/nrc1867

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