受け継がれる様式
Nature Reviews Cancer
2007年4月1日
Epigenetics: Patterns of inheritance
エピジェネティック修飾(エピ変異)としてよくみられる遺伝子の高メチル化には転写サイレンシングが伴い、癌をはじめとする疾患が生じやすい。R Wardらは、癌感受性を引き起こすMLH1 (ミスマッチ修復遺伝子)のエピ変異が生殖細胞へ伝播する証拠を突き止めた。しかし、その遺伝様式は非メンデル的である。
MLH1のエピ変異および生殖細胞系配列変異は、いずれも遺伝性非ポリポーシス性大腸癌(HNPCC)感受性を引き起こす。エピ変異は通常、体細胞に生じるが、生殖細胞のMLH1エピ変異がこれまでに8例報告されている。しかし、これらの症例に世代間伝播の証拠はない。それでも、生殖細胞のMLH1エピ変異が存在するということは、それが遺伝しうるということではないだろうか。
この可能性を検証するため、Wardらは、上記症例とは別にMLH1エピ変異を有する2例を特定し、その家族を検討した。この症例を発見するためには、大腸癌または子宮内膜癌でMLH1およびMSH2(HNPCCにかかわっている別のミスマッチ修復遺伝子)の配列変異がない50歳未満の患者24例を対象に、MLH1プロモーターのメチル化を調べた。そして、どの体細胞でもMLH1アレル1個が高密度にメチル化しているために転写サイレンシングが起きている血縁関係にない女性2例、すなわち患者Aおよび患者Bを特定した。この両患者の第一度近親者9例を分析したところ、患者Aの息子4名のうち1名に、生殖細胞への伝播と一致するMLH1のメチル化が認められた。しかし、その精子にMLH1メチル化は認められず、遺伝したMLH1エピ変異は精子形成の過程で正常に戻ることがわかった。話が複雑になるが、患者Aが担持していたメチル化アレルのハプロタイプマッピングによると、この患者の別の息子のうち2名および患者の姉妹にも同じアレルが認められたが、メチル化はしていなかった。
この遺伝様式が生じたかも知れない理由としては、いくつかの可能性が考えられる。1つは、エピ変異が、卵子形成時よりも精子形成時に効率よく抹消されるというものである。もう1つの可能性は、エピ変異は配偶子形成時に抹消されるが、cis-またはtrans-に作用する遺伝因子によって回復するというものである。それとは関係なく、上記データからは、エピジェネティック変異の遺伝が癌リスクを増大しうることがうかがえる。
doi:10.1038/nrc2115
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