肝癌を化かす
Nature Reviews Cancer
2007年2月1日
肝細胞癌(HCC)は、発見の遅れおよび腫瘍の再発のため、世界で最も死亡率の高いヒト癌の1つである。故Robert CostaとGalina Gusarovaらは、ペプチド阻害薬の投与が肝癌患者の生命線になりうることを示す証拠を提示している。
フォークヘッドボックスM1(FOXM1)転写因子は、肝細胞のDNA複製および有糸分裂に必要とされる。CostaとGusarovaらは、ヒトの HCCおよび肝腺腫に似た腫瘍を化学的に誘導したマウスのFOXM1を条件付きでノックアウトすると、腫瘍サイズおよび複製する腫瘍細胞の割合が有意に減少することを明らかにし、FOXM1がマウス肝腫瘍の進行に必要であることを示している。
腫瘍抑制因子ARFはマウスFOXM1の転写活性を阻害するため、ARFの欠損は腫瘍が進行するうえで極めて重要な事象である。そこでCostaとGusarovaらは、FOXM1を阻害する(ARF26-44)、またはFOXM1にまったく作用しない(ARF37-44)細胞透過性ARFペプチドを蛍光標識し、肝腫瘍を化学的に誘導した野生型マウスに注入してその作用を検討した。マウス肝癌の切片を検査したところ、ARF26-44 処理ではFOXM1が核小体に蓄積するが、ARF37-44では蓄積しないことが明らかになった。しかも、阻害ペプチドで処理すると、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子1b(CDKN1B、p27としても知られる)の蓄積と相関して、腫瘍の増殖および腫瘍細胞の複製が有意に抑制された。このようなことが起こるのは、FOXM1がS期のキナーゼ関連タンパク質2 (SKP2)およびサイクリン依存性キナーゼサブユニット1(CKS1)(いずれもプロテアソーム依存性分解に際してCDKN1Bを標的とするE3ユビキチンリガーゼ複合体の成分)を転写的に活性化するためとされている。このため、ARF26-44ペプチドの注入は、肝癌のFOXM1機能を阻害する。
では、FOXM1の阻害はどのようにして肝腫瘍の増殖を抑制するのだろうか。CostaとGusarovaらは、ARF26-44ペプチドで処理したマウスの腫瘍細胞のアポトーシスが選択的に増大することを示している。さらに、ARFノックアウトマウスに化学的に誘導した肝腫瘍細胞は、野生型マウス腫瘍細胞の30倍の速度で増殖し、ARF26-44ペプチドで処理すると、野生型の腫瘍細胞は増殖が有意に抑えられてアポトーシスが増大した。重要なことに、新生毛細血管の内皮細胞に発現するCD34の発現は減少した。さらに分析したところ、ARF26-44ペプチドは選択的に内皮細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍内部の血管新生を妨げていることが明らかになった。CostaとGusarovaらは、FOXM1 によって転写的に活性化されるアポトーシス阻害因子で、HCCおよび大腸癌に過剰発現することが多いバキュロウイルスIAP反復配列含有タンパク質5 (BIRC5)の発現抑制が、ARF26-44による腫瘍細胞のアポトーシスの原因である可能性を示している。
CostaとGusarovaらによると、ARF26-44ペプチドは選択的で、マウスに副作用を引き起こすことはなかった。したがって、このペプチドを肝癌の治療薬として開発すれば、患者の予後は著明に改善すると言えよう。
doi:10.1038/nrc2074
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