Research Highlights

正のフィードバック

Nature Reviews Cancer

2006年11月1日

紡錘体および中心体への損傷後に分裂後チェックポイント応答を駆動させる機序については、よくわかっていない。M Orenらは今回、腫瘍抑制因子LATS2が腫瘍抑制因子p53の主要な負の調節因子であるMDM2と相互作用し、紡錘体損傷のある細胞のp53活性化を助長すると報告している。

  Orenらは、紡錘体損傷剤ノコダゾールで細胞を処理するとLATS2がMDM2に結合することを確認したうえで、この相互作用の影響を検討した。予想通り、MDM2が過剰発現すると哺乳動物細胞系のp53の分解が助長されたが、LATS2が共発現するとMDM2 E3ユビキチンリガーゼ活性が阻害され、その結果、p53の分解が抑制された。分裂周期中はLATS2が中心体と共に局在しているため、Orenらは、 LATS2-MDM2間の相互作用は特に中心体機能が中断している際に起こるのではないかと考え、哺乳動物細胞をノコダゾールで処理したところ、確かに LATS2とMDM2との相互作用が増大した。U2OS骨肉腫細胞にLATS2を移入し、ノコダゾール処理した後にLATS2、MDM2、p53の発現および局在の経時変化をみた。ノコダゾール処理から1時間ほどで、LATS2は中心体から核質への移動を開始し、これと並行してp53の蓄積が増大した。 MDM2は核にとどまったまま強く染色され、20時間にわたって観察された。20時間までに、多くの細胞が分裂を停止した。

  LATS2の転写がp53によってアップレギュレートされることは既に報告されているため、Orenらは、TP53が野生型、あるいはTP53が安定してノックダウンされているU2OS細胞を用いて、ノコダゾール処理がLATS2 mRNAレベルに及ぼす作用を検討した。LATS2レベルは、野生型p53を有する細胞をノコダゾールで処理した場合にのみ迅速に増大した。LATS2の誘導は、ノコダゾール処理時に細胞が分裂周期のどの時期にあるかに依存していたことから、全般的なストレス応答は否定された。すなわち、p53とLATS2との間には、正のフィードバックループが存在する。

  LATS2の誘導は、どのような機能的転帰をもたらすのだろうか。Orenらは、安定したノックダウンによってU2OS細胞からLATS2をなくすと、ノコダゾール暴露後に倍数体細胞が蓄積し、Nutlin-3による薬剤処理でp53を直接活性化すれば、これが予防されることを明らかにした。

  LATS2-MDM2-p53軸は、正常な染色体数の維持に極めて重要な新規の正のフィードバックチェックポイント経路である。Orenらは、ゲノムが不安定な癌細胞では、LATS2の発現が律速されて最適な形ではないため、p53が野生型の細胞でも倍数体になってしまうと示唆している。

doi:10.1038/nrc2024

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