昔の護衛は終わり?
Nature Reviews Cancer
2006年10月1日
「ゲノムの守護神」p53は、DNA損傷に反応して細胞周期停止およびアポトーシスの両方を迅速に誘導し、これによって変異細胞が腫瘍になるのを防止している。この定説が、Gerard EvanらおよびManuel Serranoらの試験成績によって揺らいでいる。上記の初期反応はなくても構わないこと、腫瘍抑制因子p19ARFの癌遺伝子を介した活性化によるp53の安定化および活性化が、腫瘍抑制に極めて重要であることが明らかになったのである。
p53野生型マウスにγ線を照射すると、放射線感受性組織の広範囲にp53を介するアポトーシスが誘導され、そのマウスはp53欠損マウスと比較して、リンパ腫形成から有意に保護される。Evanらは以前に、4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)を加えることでp53の機能を調節するp53ノックインマウスを作製していた。この処置は、p53をいつでも作用できる状態にするだけで、活性化するわけではない。Evanらは上記マウスを用いて、γ線照射に反応したリンパ腫発生を抑えるためには、p53がどのタイミングで機能する必要があるかを明らかにした。
p53ノックインマウスを6日間にわたって4-OHT処理または偽処理し、その後全身にγ線2.5 Gyを照射した。4-OHTで処理したマウスには、リンパ系組織および腸上皮のアポトーシスなど、p53を介する古典的な反応がみられたが、偽処理したマウスには、このような病理学的変化は認められなかった。次に、この両グループにリンパ腫が発生しているかどうかを観察した。すると、驚くべきことに、まず 4-OHTを投与してから照射したマウスには、偽処理したマウスと比較してリンパ腫形成に対する保護作用がまったくみられず、照射後、リンパ系のコンパートメントの広範囲に認められたp53を介するアポトーシスは、リンパ腫の発生を妨げないことがわかった。野生型マウスも4-OHT処理したp53ノックインマウスも、DNA損傷全体が同一の動態によって解消されたことから、Evanらは、初回DNA損傷が解消された後、p53が追って腫瘍を抑制するよう機能する必要があるかどうかを検討した。p53ノックインマウスに上記と同じく照射したが、今回は、放射線照射から8日後までp53が復活することはなかった。このマウスには、放射線による病理学的変化の徴候が認められず、リンパ腫が形成されないよう有意に保護されていた。
では、DNA損傷に対する初期のp53依存性反応が必要ないとすれば、p53は腫瘍抑制因子としてどのように機能しているのだろうか。理論上は、初回照射が永続的なp53活性化のきっかけとなる不可逆的なDNA損傷をもたらす、または、p19ARFを活性化する発癌性変異を生じることでp53を活性化すると考えられている。p19ARFはDNA損傷ではなく、癌遺伝子の活性化に反応してのみ活性化するという点が重要である。Evanらが、Arf-欠損マウスをp53ノックインマウスと交配し、そのマウスにγ線を照射したところ、8日後にp53機能が回復していた。このマウスには、リンパ腫発生に対する保護作用が認められなかった。以上の結果から、p19ARF-p53経路は腫瘍抑制に極めて重要であることがわかる。Evanらは、p19ARFは、γ線照射の結果として誘導された発癌性変異によって、前リンパ腫細胞で活性化されるのではないかとしている。
Serranoらもこれと似た結論を導いている。Serranoらは、生理学的に調節されているTrp53遺伝子のコピーが1つ余分に発現するArf-ヌルマウス(p53superマウス)か、またはp53が野生型のARFヌルマウスを、γ線照射またはDNA損傷発癌物質で処理するか、または単に腫瘍の自然発生率を分析するかした。Arf-ヌルマウスはいずれも、正常なp53 DNA損傷反応を示したが、脱調節された癌遺伝子発現に反応してp53を活性化することはできなかった。p53super マウスは腫瘍形成に対する抵抗性が大きいことがわかっているが、これはp53super/ARFヌルマウスには当てはまらない。このマウスの腫瘍発生率はp53野生型/ARFヌルマウスと同じであり、p53がもたらす腫瘍発生に対する保護作用は、ARF依存性であることがわかる。
以上のデータは、DNA損傷に対する初期の反応がp53の腫瘍抑制因子としての機能に不可欠かどうかを問うほかの諸試験とも一致しており、腫瘍発生を抑えるうえでp19ARF経路の機能が重要であることをさらに裏づけるものである。
doi:10.1038/nrc2000
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