Research Highlights

形と機能

Nature Reviews Cancer

2006年6月1日

腫瘍抑制因子p53の安定性および機能の調節は、複雑なことで知られている。Franck ToledoとGeoffrey Wahlらは、p53の特異領域の機能を検討し、p53の拮抗因子であるMDM4 (MDMXでも知られる)を標的にすれば、化学療法に対する腫瘍細胞の反応を改善しうるとの結論を導いている。

p53は、遺伝子毒性ストレスに応答して活性化される転写因子で、ユビキチンリガーゼMDM2との相互作用によって分解されるため、ストレスを受けていない細胞での発現レベルは低い。p53タンパク質については、細胞周期停止またはアポトーシス (きわめて重要な腫瘍抑制因子機能のうちの二つ) のいずれを誘導するかを調節すると考えられている富プロリン領域(PRD)をはじめ、機能領域がいくつか特定されている。しかし、相反するデータが存在することから、ToledoとWahlらは、p53 PRD変異(Trp53ΔP)マウスモデルを作製した。

野生型およびTrp53ΔP/ΔPのマウス胚線維芽細胞(MEFs)をDNA損傷物質ドキソルビシンで治療すると、安定化したp53ΔPのレベルは、野生型p53の1/2から1/3となり、p53ΔPは野生型p53よりもMDM2によって誘導される分解に対する感受性が高いことを示す以前の証拠と矛盾しない。これは、p53ΔPの機能にどう影響するのだろうか。変異型p53の機能欠損の程度を分析する方法のひとつに、MDM2ノックアウト動物を致死から守るタンパク質の能力を求めるというものがあった(p53の機能喪失のみが、MDM2の消失が誘導する高レベルのアポトーシスを完全に抑えることができる)。生存能力のあるTrp53ΔP/ΔP/Mdm2-/--動物を作製できなかったことは、p53ΔPによってアポトーシス誘導能が低いまま維持されるというToledoとWahlらの結果と一致している。

p53ΔPの発現によって、Mdm4-/--動物を致死から救うことができるというのは興味深い。MDM4がMDM2と一緒にどう機能してp53の活性を調節するのかは不明である。そこでToledoとWahlらは、遺伝的アプローチをいくつか用いてMDM2およびMDM4の発現レベルを変化させた。その結果、MDM2はp53の安定性を調節し、MDM4はp53の転写活性を負に調節するとの仮説が裏付けられている。

p53ΔPがアポトーシス誘導能を低いまま維持するならば、これで十分に腫瘍形成が回避できるのだろうか。10カ月齢までに致死性の腫瘍が発生するp53ノックアウト動物とは異なり、12カ月齢までのTrp53ΔP/ΔP動物には自然発生腫瘍がほとんどみられなかった。しかし、発癌性変化が生じてしまうとp53ΔPは腫瘍の増殖を制限できず、MDM4も不活化していない限り、p53ΔPはin vivoで癌遺伝子E1AおよびHRASを発現するMEFの増殖を抑制しない。

MDM2とp53との相互作用を阻害する薬物は、すでに前臨床試験段階にある。しかし、ToledoとWahlらは、p53とMDM2、 p53とMDM4との相互作用のいずれをも標的にすれば、化学療法および放射線治療に応答したp53の安定性および転写活性がさらに高まりうると結論付けている。

doi:10.1038/nrc1919

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