一目瞭然
Nature Reviews Cancer
2006年5月1日
正常な成人幹細胞と癌幹細胞との類似が、後者を狙い打つようデザインされた治療の問題となっている。Natureに現在掲載されている論文2報では、Pten欠失が正常な造血幹細胞(HSC)および白血病幹細胞(LSC)に対して正反対に作用することが明らかにされており、この差を標的にしてラパマイシンを用いれば、HSCを傷害せずにLSCを取り除くことが可能となる。
PTEN腫瘍抑制遺伝子は、癌細胞では欠失しているか、欠失していなくても不活化していることが多い。このためSean J. MorrisonらおよびLinheng Liらは、幹細胞でそれを欠失させた場合の影響を検討した。両グループは、マウスモデルで欠失を誘導する系を用いて、成体マウスのPten 欠失が骨髄増殖性疾患を引き起こし、さらには明白な白血病を生じることを突き止めている。
健常マウスのHSCを照射マウスに移植すると、それは多系統の骨髄を再構成する。PTEN欠損HSCに同じ働きがあるかどうかをこの両グループが検討したところ、当初は多系統の再構成を引き起こすが、対照HSCとは明らかに異なり、この能力は経時的に迅速に弱まることがわかった。これは、Pten が欠失すると、HSCの増殖が長期的に維持可能なレベル以上に亢進するという両グループの所見と矛盾しない。これに対して、腫瘍またはPTEN欠損マウスの骨髄全体を移植すると、移植されたマウスは高頻度で白血病を発症し、死亡した。このことは、LSCがHSCから生じた可能性はあるものの、HSCの維持にはPTENが必要で、LSCには不要であることを示している。
PTENの下流エフェクターmTORを標的にするラパマイシンはこれまで、急性骨髄性白血病患者の治療に用いられてきた。そこで Morrisonらは、PTEN欠損マウスに対するラパマイシンの作用を検討した。ラパマイシンで治療すると、上記マウスには白血病が生じず、白血病になってしまったマウスでも生存期間が延びた。重要なことに、このような治療をしたマウスの骨髄細胞を移植しても、それを受けたマウスが白血病になることはなく、ラパマイシンが何らかの形でLSCを殺滅することを示している。Morrisonらはこのほか、ラパマイシンがPTEN欠損HSCの機能を修復することを明らかにした。
このような作用の背景にある正確な機序は依然として不明であるが、以上の結果からは、健常な幹細胞に影響を及ぼすことなくLSCを標的にする治療の可能性が見えてくる。LSCのHSC様特性はこれまで、これを実現不可能にすると考えられてきた。
doi:10.1038/nrc1901
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