無秩序から秩序を作り上げる
Nature Reviews Cancer
2006年5月1日
多発性骨髄腫(MM)は依然として、その大部分が治癒不可能であり、診断から10年後の生存率はわずか10%である。この問題の一部には、MMが染色体の構造および数の様々な変化を特徴とする極めて不均一な疾患であることが挙げられる。Ron DePinhoらは統合的な癌ゲノム学的方法を用いて、癌によるMMの変化をさらに詳しく識別しようとした。
形質(抗体分泌)細胞のクローン増殖が原因で生じるMMには、非高二倍性と高二倍性の2種類があり、どちらかといえば高二倍性の方が予後良好である。 DePinhoらはまず、高解像度アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)を用いて、新たにMMの診断を受けた患者67例の形質細胞のコピー数異常を明らかにした。そして、教師なしアルゴリズムを考案し、aCGHの結果を最大4種類の明確な分子サブクラス(k1-k4)に分けることに成功した。これにより、MMが一様でない疾患であること、高二倍性のMMをさらに2種類の分子サブクラス(k1-k2)に分類できることを示す分子レベルの証拠が得られた。
DePinhoらは次に、k1またはk2に分類された患者の生存率に差はあるのかという問いを立てた。すると、k1患者は無事象生存期間が長く、それほどではないものの、全生存期間も長かった。では、このような転帰を決める染色体変化は何だろうか。k1とk2のゲノムパターンを比較したところ、11番染色体(ch11)の獲得は好ましい転帰となるが、ch1qの獲得および/またはch13の消失があると、臨床転帰が不良となることを示す際立った変化がいくつか特定された。
関連するトランスクリプトームのgene-set enrichment analysisでは、サブクラスk1およびk2が生物学的に重要であることを示すさらなる証拠がもたらされた。k1およびk2のいずれのサブグループでもTP53、KRAS、FRAPおよびプロテアソーム経路の成分が変質していたが、ソニックヘッジホッグなどの経路の脱調節およびRAC1の脱調節が認められたのは、k2の試料のみであった。以上の所見には、さらなる検証が必要である。
しかし、すべての重要な変化に染色体全体の変質が関与しているわけではない。そこでDePinhoらはaCGHデータを併用して、再発性で限局性の高いコピー数異常を含む不連続な最小共通領域(MCRs)の有無をみた。疾患と最も関係のあるMCRのうち87領域では、47領域にDNA増幅、 40領域にDNA欠失が見られた。このうちの14領域は、生存率の低さと関連していた。
コピー数異常は遺伝子発現レベルに影響を及ぼすため、DePinhoらは統合的なRNA発現解析を用い、MCRで変質している遺伝子ひとつ一つについて癌遺伝子発現パターンを検討した。解析した遺伝子2,151個のうち30%が大幅に過剰発現しており、MMの癌遺伝子候補を検索する幅が狭まった。この中には、MYC、ABL1、MCL1 といったMMでの機能がわかっている遺伝子のほか、分裂後期促進複合体サブユニット2およびF-Boxタンパク質3のように以前はMMとつながりのなかった遺伝子、さらには、リボソーム生合成およびタンパク質合成に関与する多くの遺伝子が含まれていた。
この「オミックス」法の利用によって、癌関連遺伝子がまだ見つかっていない増幅および欠失が多数特定されたのは興味深い。以上のことから、DePinho らは、MMには新しい治療標的のみならず、有用な予後マーカーとなりうる未発見の癌遺伝子が数多く存在するのではないかと考えている。
doi:10.1038/nrc1899
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