小さな新規癌遺伝子
Nature Reviews Cancer
2006年5月1日
ヒトマイクロRNA (miRNA)の機能をみる新規スクリーニングにより、このうち2種類が癌遺伝子として関与していることが示された。Reuven Agamiらは、miR-372およびmiR-373が発癌性Rasと協同で、細胞の形質転換でのp53消失の必要性を克服すること、これが一部の精巣胚細胞腫瘍に起きていることを明らかにしている。
Agamiらは、クローン化したヒトmiRNAのほとんどを発現するベクターのライブラリを創出した上で、このライブラリのメンバーを検出するアレイを作製した。さらに、培養線維芽細胞に、そのライブラリおよび発癌性Rasの両方をウイルスにより導入した。野生型p53を有する細胞は、老化によって発癌性Rasに応答し、この抗増殖応答を克服するには通常、p53の消失が必要とされる。しかし、2種類のmiRNA、すなわちmiR-372 およびmiR-373 (相互に相同体)を発現させると、細胞は増殖を続けた。
以上の結果はそれぞれ独立に実証されており、さらに試験を重ねたところ、上記miRNAを導入した細胞は、老化表現型をもつ頻度が低く、発癌性Rasがなくても有利に増殖することがわかった。
Agamiらは、これが起きる機序を検証するため、上記形質転換細胞でp53のレベルおよび活性を調べたが、変化はみられなかった。その代わり、サイクリン依存性キナーゼ2 (CDK2)の活性が低下していないことが確認された。通常、CDK2は、p53が発癌性Rasに応答して活性化することで阻害されるが、miR-372 およびmiR-373はこれを緩和することができる。では、この作用を仲介する、miRNAの直接の標的は何だろうか。マイクロアレイ検査でmiRNAによってダウンレギュレートされることがわかった遺伝子を分析し、miRNA標的配列の有無をみたところ、最も有望な候補は、巨大腫瘍抑制相同体2 (LATS2)であった。免疫ブロット法ではLATS2 がmiRNAの標的であることが確認され、この遺伝子の3′非翻訳領域を用いたルシフェラーゼアッセイではLATS2がこの2個のmiRNAによって直接ダウンレギュレートされることがわかった。これは、この現象の機構を十分に説明するための第一歩ではないかと思われる。
miR-372およびmiR-373は、患者の腫瘍発生に関与しているのだろうか。Agamiらは、大部分がp53陽性である精巣胚細胞腫瘍の初代細胞および細胞系でmiR-372およびmiR-373の発現の有無をみた。ほとんどのサンプルにはmiRNAが発現しており、そのすべてが野生型p53を含んでいた。miRNAが発現していなかった腫瘍4つのうち2つには、この種類の腫瘍ではきわめて稀な事象であるTP53遺伝子の不活化変異があり、興味がもたれる。これに対して、体細胞腫瘍にはmiRNAがほとんど発現していなかった。
以上の結果は、p53野生型腫瘍にみる老化迂回の新しい機序を明らかにするものである。発癌性miRNAがどのくらい広まっているかはまだわからないが、この試験は、ほかのmiRNAが腫瘍形成で担う役割を解明するシステムをも提供している。
doi:10.1038/nrc1902
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