Research Highlights

Boveriを越えて

Nature Reviews Cancer

2006年5月1日

染色体1本まるごとの獲得または消失(異数性)は、癌で特定される頻度が最も高い遺伝子異常であるが、これが生じる機序はほとんどわかっていない。Thea Tlstyらは現在、腫瘍抑制因子p16INK4aが関与する経路を通じて中心体が多く発生しすぎると、異数性娘細胞が生じることを明らかにしている。

1914年に発表されたTheodor Boveriの古典仮説は、異数性の原因として中心体(紡錘体の極となる小器官)の数の増大を提案している。Tlstyらは、集団の倍加が続いて追加的な中心体が蓄積し、異数体になっている初代ヒト乳腺上皮細胞の変異集団(vHMEC)を用いて、これをさらに検討した。その結果、追加的な中心体が倍数性によるものではないこと、ヒドロキシ尿素(HU)によりDNA合成を阻害すると、上記細胞が獲得する中心体数が多くなりすぎることが明らかになった。このことから、中心体の重複とDNA複製とは切り離されていることがわかる。

p16INK4a発現の消失はvHMECの目印となる特徴であるが、では、追加的な中心体を獲得する原因となる役割がここにあるのだろうか。正常HMEC (p16INK4aが発現し、追加的な中心体は蓄積しない)でp16INK4aをコードするmRNAを用いたRNA干渉法を実施したところ、HUでの処理後に追加的な中心体をもつHMECの割合が増大した。逆に、野生型p16INK4aを発現するプラスミドをvHMECに移入すると、HUによる処理後に追加的な中心体の発生が阻害された。以上のことから、p16INK4a活性の消失による追加的な中心体の獲得が、異数性娘細胞が生まれる理由となる可能性が最も高い。

免疫細胞化学的方法によって追加的な中心体を詳しく検討したところ、依然として機能性ではあるものの、中心粒を1つしか含まないものの割合が統計的に有意であることが判明した。これは、このような追加的な中心体が、対になった中心粒の分裂によって生じることを示している。したがって、S期に p16INK4aがこれを妨げているのは間違いない。

サイクリン依存性キナーゼ2 (CDK2)は、DNA合成および中心体の重複を調節することがわかっているが、では、p16INK4a経路にCDK2が関わっているのだろうか。Tlstyらは、CDK2活性を阻害すると、HUで処理したvHMECで追加的な染色体の獲得が妨げられることを明らかにした。しかも、そのデータからは、p16INK4aがサイクリン依存性キナーゼ阻害因子p21と直接相互作用することによって、CDK2活性を調節していることがわかる。

このように、p16INK4aには中心体生物学的に重要な機能があり、CDK2を通じて中心粒の対の分裂を妨げ、DNA複製および中心体重複のサイクルをつなぐよう作用する。p16INK4aが消失すると、細胞はストレス条件下で有利に増殖する。また、DNA合成が一時的に阻害されると、追加的な中心体が獲得され、結果として異数性娘細胞が生じる。このような遺伝子量の崩壊が、腫瘍形成に不可欠な増殖促進および抗アポトーシス機序をもたらすと考えられる。

doi:10.1038/nrc1903

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