Research Highlights

突然変異シグナルを変換する

Nature Reviews Cancer

2006年5月1日

上皮増殖因子受容体(EGFR)の異所性活性化は、肺癌発生の寄与因子である。James Alvarezらは現在、EGFRを介して転写因子ファミリーメンバーのひとつを活性化することが、この過程にきわめて重要であることを明らかにしている。

EGFRの活性化は、転写シグナル伝達因子/活性化因子 (STAT)ファミリーを含むシグナル伝達経路のカスケードを誘導する。確かな証拠によると、STAT3 (およびSTAT5)はEGFR活性に応じて活性化するため、Alvarezらは、変異型EGFRの発癌作用にSTAT3活性が必要かどうかを検討した。

STAT3は、チロシン705およびセリン727におけるリン酸化の結果として活性化する。Alvarezらは、このリン酸化が、非小細胞肺癌 (NSCLC)に認められるEGFR変異体を発現するNIH3T3線維芽細胞のEGFRキナーゼ活性に依存していることを明らかにした。しかし、EGFR 変異体を有するヒトNSCLC細胞系2系統を用いて上の所見を確認したところ、変異型EGFRのキナーゼ活性依存性であるのはセリン727のリン酸化のみであった。とはいえ、siRNAを用いてドミナントネガティブSTAT3変異体であるSTAT3 を阻害したところ、STAT3活性が上記NSCLC細胞系の生存力を高めることが明らかになった。さらに、STAT3の阻害によっては、EGFR阻害因子であるゲフィチニブに対するこの細胞の感受性が増大した。

STAT3が実際に変異型EGFRの発癌作用をメディエートしているのであれば、STAT3標的遺伝子が変異型EGFRを有する肺腫瘍に発現することが予測される。Alvarezらはこれを分析するため、すでにマイクロアレイ遺伝子発現データが利用できる肺腺癌127例のEGFR配列を明らかにした。Alvarezらは、以前に明らかにしておいた乳癌試料の活性化STAT3遺伝子特徴セットを用い、EGFRキナーゼ変異体を有する腫瘍とこれがない腫瘍とを比較することによって、変異型EGFRを有する肺腺癌にこの活性化STAT3遺伝子特徴プロフィールがよく現れていることを示すことができた。

Alvarezらは、STAT3の活性化など変異型EGFRを介するシグナル伝達の検討が、EGFR阻害因子に対する肺腫瘍の反応についての理解を深めるのに役立つはずであると結論づけている。また、その所見からは、STAT3に基づく阻害因子の利用が有益である可能性もうかがえる。

doi:10.1038/nrc1898

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