緊急会談
Nature Reviews Cancer
2006年1月1日
悪性度の高いBCR-ABL+ 慢性骨髄性白血病(CML)の急性転化期は、BCR-ABLキナーゼ阻害因子であるメシル酸イマチニブ(グリベック)での治療によって、一時的ではあるが遅らせることができる。Danilo Perrottiらはこのほど、通常はその前の慢性期に活性化するが急性転化で不活化する腫瘍抑制タンパク質ホスファターゼ2A (PP2A)が活性化すると、発癌性のBCR-ABLキナーゼが阻害され、それによって白血病の発生が妨げられることを明らかにした。
Perrottiらはまず、SET (PP2Aの強力な既知の阻害因子)が、新規なBCR-ABLの標的であることを明らかにした(図参照)。SETの発現はBCR-ABL活性と相関関係にあり、患者由来のCML急性転化期の細胞に最も多かったのである。PP2Aの発現は、正常なCD34+骨髄細胞と比較して、CML慢性期のCD34+細胞では52%、CML急性転化期のCD34+細胞では94%少なかった。イマチニブ療法は、SETの発現を抑制した。
短いヘアピンRNAを用いて、BCR-ABLが高レベルで発現する細胞系のSETを阻害すると、PP2A活性はイマチニブで処理した細胞にみるレベルまで回復し、BCR-ABLの発現が抑制された。BCR-ABL+CML細胞系にPP2Aが過剰発現しても、BCR-ABLの発現は抑制された。さらに、BCR-ABL+細胞系およびCML急性転化期の細胞をPP2A活性化因子であるフォルスコリンで処理すると、イマチニブに対する感受性細胞でも、耐性細胞でも、BCR-ABLのダウンレギュレーションが起きた。逆に、BCR-ABL+CML細胞系でSETが多く発現すると、PP2A活性が低下し、BCR-ABL標的の発現が増大した。
Perrottiらはこのほかにも、PP2Aの過剰発現またはSETの阻害によって、イマチニブに感受性および耐性を示すBCR-ABL+CML 細胞系と、患者由来のCML急性転化期細胞の増殖および生存が大幅に抑制されることを突き止めている。そればかりか、この操作によっては、BCR-ABL にT3151変異、すなわちイマチニブに対する強力な耐性をもたらす臨床的に重要な変異をもつBCR-ABL発現細胞系でも同じ作用が認められた。
では、PP2A発現は、BCR-ABLによる白血病発生にどのような影響を及ぼすのだろうか。重症複合免疫不全(SCID)マウスに、 BCR-ABLが発現する親細胞、SET陰性細胞またはPP2A過剰発現細胞を注入した。親細胞は6〜7日のうちに腫瘍を形成し、SET陰性細胞は 10〜12日のうちに親細胞より75%小さい腫瘍を形成した。これに対して、PP2A過剰発現細胞が15日後までに生じた腫瘍は~90%小さかった。イマチニブに感受性または耐性を示すBCR-ABL発現細胞を注入したマウスをフォルスコリンまたは1,9-ジデオキシフォルスコリンで治療すると、細胞注入から5週間を経過しても、白血病発生を示す証拠は認められなかった。しかも、治療したマウスの50%が、逆転写PCRでBCR-ABL陰性となり、18週まで生き延びた。これに対して、BCR-ABL発現細胞を注入したマウスにフォルスコリン治療をせずにおくと、5週間以内に白血病で死亡した。
以上のことから、PP2A腫瘍抑制因子の活性化因子は、患者にイマチニブ耐性が現われた場合にも、CML急性転化を治療するための有用なアプローチになりうると思われる。
doi:10.1038/nrc1785
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