Research Highlights

Pumaを手懐ける

Nature Reviews Cancer

2006年1月1日

細胞死をしかるべく実行し、細胞の生存を調節するには、DNA損傷時にp53活性をコントロールすることがきわめて重要である。しかし、p53は、さまざまな種類の細胞で、周期停止またはアポトーシスを誘導するかどうかをどのように決定しているのだろうか。Wen-Shu WuらはCellでこのほど、転写因子slugが、puma (Bbc3) (BCL2相同領域3 (BH3)のみのタンパク質)をコードする遺伝子を抑制することで造血前駆細胞の運命を決定すると報告している。

Slug(Snai2遺伝子によってコードされる)は、きわめてよく保存されたslug/snailファミリーに属し、このファミリーの転写因子は、Caenorhabditis elegansからヒトまで、発生のさまざまな段階で数々の役割を担っている。造血系では、slugはDNA損傷から前駆細胞を保護する生存因子として機能する。興味深いことに、slugはDNA損傷時に細胞周期停止およびDNA修復が生じる骨髄系の幹細胞および前駆細胞には発現するが、遺伝毒性ストレスを受けてアポトーシスを来す分化細胞には発現しない。では、slugが細胞周期停止と細胞死との間のスイッチになると仮定すれば、そのような決定を促す機序とはどのようなものなのだろうか。

Wuらは、slugとp53(DNA損傷によるアポトーシスの重要なメディエータ)との遺伝的相互作用を検討し、slug は、p53を介するアポトーシス経路に拮抗することによって、造血前駆細胞がDNA損傷によるアポトーシスを起こさないように保護することを突き止めた。 slugは強力なSNAG転写抑制領域を含むことから、p53応答遺伝子を抑制することによってp53に拮抗しているものと考えられる。Wuらは、多数の手技を組み合わせて、slugが、Bbc3の第1イントロンにある保存された結合部位と特異的に結合することで選択的にpuma(p53によるアポトーシスの下流エフェクター)をダウンレギュレートすることを明らかにした。

slugがp53の下流で機能することを示す証拠と、マウスおよびヒトのSnai2 遺伝子にp53応答配列が存在することとから、Wuらは次に、slugがp53の標的となりうるかどうかの検討に移った。in vitroでの実験では、p53はSnai2にある推定上の各p53応答配列と相互作用するだけでなく、γ線照射によってslug発現を直接アップレギュレートすることが明らかになった。さらに、 slugとp53とがないか、またはslugとpumaとがないマウスを分析したところ、slugはp53の下流かつpumaの上流で機能し、in vivoで遺伝毒性ストレスにさらされる前駆細胞の運命をコントロールしていることが確認された。

slugがBbc3を転写抑制する能力には、腫瘍形成に重要な意味がある。すなわち、slugはさまざまな腫瘍に異所性に発現し、pumaをはじめとするBH3のみのタンパク質の発現を抑制することによって腫瘍形成に寄与しているものと考えられる。Wuらは、癌治療前におけるslugの選択的アップレギュレートが、造血前駆細胞の生存に有利であると考えられることから、自らの所見が癌治療にも意味をもつのではないかとしている。

doi:10.1038/nrc1786

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