Research Highlights

G力

Nature Reviews Cancer

2006年1月1日

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は大腸癌を予防するが、その抗癌機序は解明されていない。Maria Domenica CastelloneらはScienceで、NSAIDは向炎症性のシクロオキシゲナーゼ2 (COX2)酵素の活性を遮断することによって、通常は細胞増殖を促進するGタンパク質共役型受容体シグナル伝達経路を妨げると報告している。

NSAIDは、プロスタグランジン合成に関与する2種類の酵素(COX1およびCOX2)を阻害し、家族性腺腫症(大腸腺腫症遺伝子(APC)の変異による癌素因症候群)患者の腺腫の数およびサイズを抑えることができる。また、この癌のAPCminマウスモデルの大腸癌を予防することもできる。COX2とその代謝物のひとつであるプロスタグランジンE2 (PGE2)が大腸癌の発生に寄与していることは、多くの試験によって示されているため、Castelloneは、PGE2とAPCが調節するシグナル伝達経路とのつながりを明らかにしようとした。

PGE2は、APCに不活化変異を担持している大腸癌細胞のマイトジェンである。Castelloneは、PGE2による大腸癌細胞の処理で影響を受けるAPCシグナル伝達の下流メディエーターを探す中で、このプロスタグランジンがβカテニンの転写活性を増大させることを確認した。この経路をひと区切りずつ分けてみたところ、PGE2がその受容体のひとつであるEP2を活性化することがわかった。EP2はα、βおよびγ のサブユニットよりなるヘテロ三量体Gタンパク質に結合している。受容体が活性化すると、この3つのGタンパク質サブユニットは解離する。遊離Gαは、APCとともに大分子複合体を形成する足場タンパク質であるアキシンと相互作用する。この相互作用により、複合体はグリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)を放出する。同時に、GβおよびGγの両遊離サブユニットはホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)およびキナーゼAKTを直接刺激し、その結果、GSK3βがリン酸化および不活化するに至る。そのアキシン複合体から解離して不活化したGSK3βは、もはや転写因子βカテニンをリン酸化および不活化することはできない。

このため、安定化したβカテニンは核に移動することができ、そこで転写因子TCFおよびLEFと相互作用して、大腸癌細胞の増殖を助長する遺伝子を活性化する。この新規なシグナル伝達経路が明らかになれば、大腸癌化学予防のための代替治療戦略がもたらされる。

doi:10.1038/nrc1788

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