Research Highlights

Tリンパ球細胞傷害性を抑制する

Nature Reviews Cancer

2006年1月1日

腫瘍細胞が宿主の腫瘍特異的T細胞応答を回避する方法のひとつは、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)を産生するか、または宿主細胞にこれを産生させるよう誘導することである。TGFβには、実にさまざまな免疫抑制作用があるが、それがT細胞を介した腫瘍除去を阻害する明確な機序はわかっていない。最新のCancer Cellに発表された報告では、TGFβが細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を介した細胞傷害性のエフェクター発現を阻害することが明らかにされている。

TGFβは腫瘍細胞の増殖を阻害することができるが、腫瘍は進行するにつれてこうした増殖阻害作用に耐性を示すことが多くなり、このサイトカインの免疫抑制特性を利用できるようになる。この重要性は、その著者らがマウス腫瘍モデルを用い、(以前の試験と一致して) in vivoでのTGFβの全身中和により腫瘍が除去されることを突き止めた際にわかった。腫瘍細胞の除去は、CD8+T細胞を介する腫瘍細胞特異的細胞傷害性が高まったことによるものであった。これと一致して、in vitroで活性化するT細胞の遺伝子発現プロフィールをTGFβの存在下または非存在下でみると、CTLを介する細胞傷害性のエフェクターであるパーフリン、グランザイムA、グランザイムB、インターフェロンγ(IFNγ)およびCD95リガンド(CD95L、FASLともいう)をコードする遺伝子は、TGFβの存在下でダウンレギュレートされていた。さらに分析したところ、TGFβの存在下、in vitroでCD8+T細胞を活性化すると、CTLが標的細胞の溶解をメディエートする能力と同じく、上記タンパク質それぞれの細胞内レベルも低下することがわかった。何よりも重要であるのは、in vivoでのTGFβの全身中和により腫瘍が除去されたマウス腫瘍モデルで、TGFβをin vivoで中和した場合、パーフォリン、グランザイムA、グランザイムBおよびIFNγの発現は腫瘍特異的CD8+T細胞によって回復するが、CD95Lの発現は回復しないことがわかったことである。

この試験から、TGFβは、腫瘍特異的CD8+T細胞のクローン性増殖を阻害するのみならず、その細胞が細胞傷害性をメディエートする能力も抑制することがわかる。この著者らは以上のデータから、TGFβが上記作用をメディエートする機序をさらに理解すれば、それが新たな機動力となって、TGFβを阻害する治療法が開発されるのではないかと考えるに至った。なぜなら、このような治療法は、TGFβの免疫抑制作用のみならず、このサイトカインの腫瘍細胞に対する転移促進作用をも標的としているためである。

doi:10.1038/nrc1787

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