Research Highlights

INK4Cと髄芽細胞腫

Nature Reviews Cancer

2005年12月1日

髄芽細胞腫は最も一般的な小児脳腫瘍であるが、その原因となる変異は、この腫瘍のほとんどにおいて不明である。最新号掲載のMartine Rousselらによる証拠は、相当数の髄芽細胞腫症例が腫瘍抑制因子INK4Cの消失に起因することを示している。

小脳は主として出生後に形成され、そこでは顆粒神経前駆細胞(GNP)の薄層がマイトジェンソニックヘッジホッグ(SHH)に応答して増殖している。増殖が必要量に達すると、GNPは細胞周期を脱して分化する。証拠によると、髄芽細胞腫は変異したGNPによって生じ、変異の多くではNMYC、サイクリンD1、サイクリンD2といった増殖タンパク質が常に発現していた。

INK4C (CDKN2Cにコードされる)は、サイクリンD依存性キナーゼの特異的阻害因子で、小脳発生時の発現プロフィールから、GNPの細胞周期脱出を調節するのに重要と考えられる。そこでRousselらは、いくつかのマウス髄芽細胞腫モデルでINK4Cの発現を調べた。in situハイブリダイゼーションを用いることにより、GNPの分裂時にCdkn2c mRNAが誘導されること、この細胞が細胞周期を脱して分化する際にその発現が一時的に維持されることを突き止めた。

マウスに髄芽細胞腫を誘導する方法としては、p53を消失させることが有用であるが、p53の変異を有するヒト髄芽細胞腫は全体の10%にすぎない。Trp53およびCdkn2cのダブルノックアウトマウスを分析したところ、このマウスのGNPは、これに対応する野生型の細胞より後の発生段階で依然として細胞周期内にあることがわかった。in vitro増殖アッセイからも、Cdkn2cまたはTrp53が消失すると、GNPがSHHのマイトジェン作用に感受性を示す時間が長くなることが判明した。また、この両遺伝子をともに不活化すると、さらに増殖が助長された。

Shh経路の途絶は髄芽細胞腫症例の約25%に起こることから、Rousselらは、SHH受容体のパッチド(Ptch)の1対立遺伝子がないマウスを用いてINK4C途絶の作用を検討し、Cdkn2c対立遺伝子のいずれか一方または両方が欠失したPtch1マウスの方が、Ptch1, Cdkn2cマウスよりも発症が早いことを突き止めた。Cdkn2cのヘテロ接合体とホモ接合体の腫瘍発生率に差はなく、ヘテロ接合体の腫瘍で第二対立遺伝子の消失が選択されることはなかった。このことから、INK4Cは、髄芽細胞腫の発生を抑制する上でのハプロ不全であることがわかる。

INK4Cの消失は、ヒト髄芽細胞腫の発生にとって重要なのだろうか。Rousselらが確認したところ、CDKN2C mRNAは依然として発現するが、検体73個のうち14個にはタンパク質発現が認められなかった。このことから、相当数のヒト髄芽細胞腫においては、INK4Cの転写後調節の変化が重要ではないかと考えられる。

doi:10.1038/nrc1766

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