Research Highlights

過剰なエネルギー

Nature Reviews Cancer

2005年12月1日

好気的解糖と称されるグルコース依存性代謝のアップレギュレーションは、多くの腫瘍、特に悪性度が高いものや、進行期のものの特徴である。解糖は、 ATPをもたらして腫瘍細胞の高い生物エネルギー必要量を満たし、また代謝が過剰になれば、タンパク質の膜産生および翻訳後修飾に必要な脂質合成のための前駆体をも提供する。Craig ThompsonらはCancer Cellで、グルコース代謝と脂質合成とをつなぐ重要な酵素を阻害すれば、腫瘍増殖が抑制されると報告している。

好気的解糖によって産生されたピルビン酸がミトコンドリアのトリカルボン酸回路に入るとクエン酸が産生され、それがサイトゾルに運び出される。クエン酸は ATPクエン酸リアーゼ(ACLY)によって切断され、細胞内の主な脂質構成要素であるアセチルCoAが生じる。このため、Thompsonらは短い二本鎖RNA (siRNA)ノックダウンによって腫瘍細胞に対するACLY阻害の作用を評価した。ヒト肺腺腫細胞系A549 を抗ACLY siRNAで処理したところ、ACLYおよびアセチルCoAのレベルが低下し、グルコース依存性脂質合成も低下した。処置後72時間が過ぎるまでには、G1期の細胞が増え、その結果、細胞数が30%減少した。また、腫瘍発生を比較するため、ヌードマウスの左右の脇腹に、ACLYが安定的にsiRNAノックダウンされているか、またはベクターのみを移入したA549のクローンをそれぞれ注入している。ACLYノックダウン細胞は、対照よりも小さく、ムチンを分泌する腺構造を特徴とした分化度の高い腫瘍を形成した。分化度が高いという所見に驚いたThompsonらは、よく知られた腫瘍細胞分化モデル、すなわちヒト慢性骨髄性白血病細胞系K562を用いてこの作用を確認した。すると、ACLYノックダウンは、この細胞でも赤芽球分化を引き起こした。

Thompsonらはこのほか、腫瘍細胞増殖に対するACLYの化学的阻害因子B204990の作用を検討している。SB204990によって、解糖能が高い正常細胞系は脂質合成が低下し、G1期停止を来したことから、Thompsonらは次に、ヒト腫瘍細胞3系統について検討したところ、解糖能が高い A549およびPC3はSB204990に感受性を示し、解糖能が低いSKOV3は耐性が大きかった。上記細胞系を用いた異種移植片をもつマウスを SB204990で処理すると、A549およびPC3の異種移植片には、細胞静止作用のほか、腺ムチンを発現する構造への分化がはっきりと認められたが、 SKOV3異種移植片にはこれが認められなかった。

ACLY阻害によって、解糖能が高くない腫瘍の増殖を抑制できないということは、腫瘍細胞が利用可能な脂質生成経路がほかにあるということになる。しかし、ACLY阻害剤(ならびにスタチン、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤および脂肪酸合成阻害剤)の多剤との併用は、往々にして解糖能の高い進行した腫瘍の治療に有用ではないかと思われる。

doi:10.1038/nrc1763

「レビューハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度