Research Highlights

ノーマークだった危険な遺伝子

Nature Reviews Cancer

2005年12月1日

特定の遺伝子座での刷り込み消失(LOI)はこれまで、いくつかの腫瘍形成に関与しており、刷り込み遺伝子と思われる腫瘍抑制遺伝子および癌遺伝子の発現が不均衡になった結果ではないかと考えられている。これまでの諸試験でわかっているのは、LOIが腫瘍形成に関連することのみで、それが原因かどうかは不明である。また、全体的なLOIの帰結に取り組んだものはなく、単一遺伝子のLOI または刷り込み不均衡(母系または父系の遺伝情報が完全に刷り込まれたゲノムをもつ)の帰結に取り組んでいるに過ぎない。Rudolf Jaenischらは最新号で、全体的なLOIを来すと、腫瘍形成に至ることを明らかにしている。

Jaenischらは、DNAメチルトランスフェラーゼの条件突然変異体を用いて、一時的にマウス胚性幹(ES)細胞にメチル化が起こらないようにした。メチル化を復活させると、刷り込みパターンが消失し、母系ゲノムおよび父系ゲノムがもはや別々にメチル化することはなかった。Jaenischらがこの ES細胞から線維芽細胞を得たところ、この細胞は不死化して迅速に増殖し、さまざまな種類の細胞の増殖を阻害するサイトカインである形質転換増殖因子による阻害に抵抗を示した。

線維芽細胞では、Igf2r、Tsp1およびCdkn1cといったいくつかの腫瘍抑制因子の発現が抑えられ、Peg3、Peg5およびIgf2といった癌遺伝子が過剰発現していた。刷り込みのない線維芽細胞を免疫不全マウスに注入したところ、対照にはまったくなかった腫瘍形成がある程度認められた。しかし、線維芽細胞に構成的に活性なRASをも形質移入すると、腫瘍形成の速度が大幅に増した。Jaenischらはこの理由について、RASとLOIとが共同で腫瘍を形成するためではないかとしている。

刷り込みのないES細胞と正常ES細胞とを混合して作製したキメラマウスには、18カ月齢までに腫瘍が認められたが、対照マウスに腫瘍形成が認められたのは1例のみであった。キメラマウスの腫瘍はいずれも、刷り込みのない細胞に由来するものであった。キメラマウスの子孫に腫瘍が認められなかったのは重要で、これは、刷り込みが配偶子形成時にリセットされるためである。

以上のことから、刷り込みは後成的な腫瘍抑制現象であることがわかる。刷り込みが消失すると、腫瘍抑制因子および癌遺伝子の両方の調節が不適切となって細胞が不死化する。このとき、完全な形質転換には、さらなる遺伝的変質が必要である。

doi:10.1038/nrc1767

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