Research Highlights

崩壊の瀬戸際

Nature Reviews Cancer

2005年11月1日

コルヒチンおよびコンブレタスタチンA4ホスフェート(CA4P)など、癌治療に用いられる微小管阻害剤には、腫瘍血管系を迅速かつ壊滅的に途絶させるなど、興味深い付加的な抗癌作用を併せ持つものがいくつかある。こうした作用機序は今のところ不明であるが、Shahin Rafiiらは、CA4Pが、内皮細胞結合分子である血管内皮カドヘリン(VEカドヘリン)を阻害することによって、不安定な腫瘍新生血管の後退を誘導すると報告している。

CA4Pは、South African bush willow(学名:Combretum caffrum)から単離されたスチルベン化合物である。CA4Pは、コルヒチンよりも高い有効性でチュブリンと結合することから、当初は、抗有糸分裂物質として研究されていた。しかし、のちになって、腫瘍の血管途絶および壊死を誘導することも明らかになった。卵巣癌、肺癌または甲状腺未分化癌患者を対象とした臨床試験では、単剤でも、化学療法薬との併用でも、その肯定的な効果が判明している。

Rafiiらは、この化合物が、腫瘍血管新生時に血管を形成する血管新生内皮細胞に及ぼす作用を評価し、無毒性低用量のCA4Pは内皮細胞の増殖を阻害するばかりでなく、細胞間結合、細胞遊走および足場接着をも崩壊させ、細胞死に至らしめることを突き止めた。

VEカドヘリンは、細胞間接着および細胞骨格形成の重要なメディエータであることから、Rafiiらは、それがこの薬物に対する内皮細胞の反応で果たす役割を検討した。CA4P処理のわずか3〜6時間後には、通常は細胞間接着部に局在するVEカドヘリンと、そのシグナル伝達パートナーの βカテニンが再分布し、18時間後までには、細胞接着が認められなくなった。アデノウィルスE4遺伝子を発現させて、VEカドヘリン複合体を安定させると、細胞がCA4Pの作用を受けなくなったことから、この複合体の崩壊が、この薬物の重要な機序であることがわかった。生化学的分析では、CA4PがVEカドヘリンおよび βカテニンのチロシンリン酸化を迅速に減少させ、それによって、内皮細胞の機能的構造および生存の維持に必要な内皮シグナル伝達経路が遮断されることが明らかになった。

では、この薬物は、出来上がってしまった血管に対してどのような作用をもつのだろうか。三次元管腔形成アッセイからは、CA4Pが、毛細管網を遮断するのみならず、すでに確立されている内皮網をも不安定化しうることがわかった。ただし、これは通常血管を安定化させる平滑筋細胞の不在下でのみ生じる。さらに、in vivo試験では、CA4Pがマウスモデルの腫瘍壊死および腫瘍血管系の喪失を引き起こした。

Rafiiらは、平滑筋細胞が並ぶ正常血管が安定し、CA4Pの影響を受けないモデルを提案している。発生期の不安定な腫瘍新生血管は平滑筋細胞という鞘で覆われていないため、CA4PはVEカドヘリンを介する細胞間接着を崩壊させることによって、この血管を選択的に不安定化させている。したがって、この薬物は正常血管系に対する毒性が低い腫瘍特異的薬物として用いられる可能性がある。なお、現在実施中の臨床試験からは、これが当てはまることがわかっている。

CA4PがVEカドヘリン− βカテニン複合体を直接崩壊させることによって機能しているのか、この複合体のリン酸化およびシグナル伝達をどのようにして間接的に変調させるのかを、内皮細胞の細胞骨格再形成に対する干渉による可能性も含めて明らかにするには、さらに研究を重ねる必要がある。

doi:10.1038/nrc1744

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